東京メトロ本郷三丁目駅すぐ近く、東京大学へ向かう道の交差点に店を構える老舗和菓子店「本郷 三原堂」。水天宮前にある総本店で修行をした初代がのれん分けをしてもらい、「大学最中」を看板商品に掲げて昭和7年(1932)から店を続けて80年以上が経ちます。そんな歴史ある和菓子店で毎週金曜日だけ、ジャンヌトロワの「金曜日のパン屋さん」がオープン。「ぐるんぱのりんごパン」「スプーンおばさんのクリームチーズバケット」など絵本にちなんだ名前が付けられた12種類のパンが並びます。和菓子店でなぜパン屋さん? 三原堂の代表・大森葉子さんやスタッフにお話を伺うと、町に感謝しながら生きる三原堂の姿がありました。



このジャンヌトロワは、春日通りをはさんで向こう側にあったパティスリーで、オレンジピールをビターチョコレートでコーティングした誕生から30年のロングセラー「オランジュショコラ ジャンヌ」をはじめ、ケーキや焼き菓子やパンも販売していました。しかし、パティシエの人手不足のため3年前に閉店。実はこのお店は三原堂の洋菓子部門で、今でも店舗の一角にオランジェショコラなどが置かれ、パンも金曜限定で販売が続いているのです。パン製造を洋菓子部門のチーフ保田さんが担当しています。

パン好きが高じて手がけることになったものの、保田さんは洋菓子のプロフェッショナル。店頭にパンが並ぶまでに、さまざまな苦労がありました。「味は良いのに、見た目がいまいちだったり……。バケットは、クープ(切り込み)がきれいに入るように小麦粉自体を変えたりしたので、特に時間がかかりましたね」。また、パン作りの経験がないことを逆手に取り、洋菓子の材料をパンに生かすチャレンジも。「パンでは使わないアーモンドプードルを生地に入れ込んでみました。焼いてみないと正解が出ない、そんな難しさがありました」。1年ほど研究を重ねて、ようやく理想のパンが完成しました。



そんな保田さんの思いがこもったパンは、9時の開店直後からどんどん売れていきます。大森さんは「和菓子店の店内でパンが並ぶことを受け入れられるのだろうかと、心配もありましたが、販売初日にパンを目がけて来てくださるお客様もいらして心配無用でした」と振り返ります。ここ本郷は大学のほかに会社が多く集まるエリアに変化を遂げるなか、昔から続く商店が次々と閉店してしまい、とうとう明治25年(1892)創業の老舗パン屋の「明月堂」も4年ほど前にやめてしまったそうです。「会社で働いていると自宅と会社の往復で、ある意味単調な毎日になってしまいます。そこで、毎週金曜日にパンが並ぶささやかなイベントがあったら、生活が少し楽しくなるかな。そんな思いもあって続けています」。


町は変化していくもの。そんななか、「三原堂がないと困るよね」と言われる商売を続けることが大事だと大森さんは言います。季節ともにある和菓子を作り、伝えることはもちろん、近くの店舗とコラボレーションすることもあり、町のために日常を彩る楽しさを届けています。その1つが、昭和初期に建てられたエチソウビル2階にある「FARO Coffee & Catering(ファロ コーヒー アンド ケータリング)」との取り組み。


お客様のこと、町のことを思い、柔軟に考えて行動する三原堂を訪れると、何かしらの発見があるはずです。今週頑張ったご褒美に、「金曜日のパン屋さん」でこだわりのパンを買ってみてはいかがでしょうか。お昼頃に売れ切れてしまうこともあるので、予約も受け付けてくれます。

(文:久保田真理)
(撮影:鈴木優太)
(撮影:鈴木優太)