●日本で初めて「各回完全入れ替え制」「定員制」を採用

地下鉄神保町駅のA6出口を出てエレベーターで10階にのぼると、そこが「岩波ホール」です。出迎えてくれるのは、重厚感のあるロビーと壁一面に貼られた過去のポスターたち。シネコンのような広さはないものの、映画を観に行くことが特別な楽しみだった時代を想起させるような、ノスタルジックで優雅な雰囲気が漂います。

岩波ホールが誕生したのは1968年。神保町駅の完成に伴い、多目的ホールとしてオープンしました。最初は映画に限らず、お芝居や講座・講演が開かれていたほか、貸ホールとしてピアノの発表会等にも使われていたそう。

映画館として営業されるようになったのは1974年のこと。テレビの台頭により映画離れが進む中、初代総支配人の高野悦子氏と映画人の川喜多かしこ氏は、岩波ホールを舞台に世界の埋もれた名画を世に紹介する「エキプ・ド・シネマ」という運動を立ち上げました。エキプ・ド・シネマとは、“映画の仲間たち”という意味。「2人で始めた活動が日本中、世界中に広がるように」という想いが込められています。

席数は220席。木の壁がレトロで魅力的です。建築設計を担当したのは芦原義信氏。スタッフさん達のお気に入りは七角形の天井なのだとか。
エキプ・ド・シネマを始めるにあたり、2人は4つの目標を掲げました。
・ 日本では上映されることの少ない、アジア・アフリカ・中南米など欧米以外の国々の名作の紹介。
・ 欧米の映画であっても、大手興行会社が取り上げない名作の上映。
・ 映画史上の名作であっても、何らかの理由で日本で上映されなかったもの。またカットされ不完全なかたちで上映されたもの。
・ 日本映画の名作を世に出す手伝い。
現在でもこの精神は受け継がれていて、ほかの映画館では観ることのできない、良質の作品が多数上映されています。
また、日本で初めて各回完全入れ替え制、定員制を実施したのも岩波ホールです。当時の映画館では、観客は好きな時間に入退場でき、定員を越えた場合は立ち見をすることが一般的でした。映画は大衆娯楽という位置づけだったのです。映画を文化的に価値のある芸術作品と見なし、じっくり鑑賞できる環境を整えたい。背景にはそんな目論見があったといいます。
エキプ・ド・シネマを始めるにあたり、2人は4つの目標を掲げました。
・ 日本では上映されることの少ない、アジア・アフリカ・中南米など欧米以外の国々の名作の紹介。
・ 欧米の映画であっても、大手興行会社が取り上げない名作の上映。
・ 映画史上の名作であっても、何らかの理由で日本で上映されなかったもの。またカットされ不完全なかたちで上映されたもの。
・ 日本映画の名作を世に出す手伝い。
現在でもこの精神は受け継がれていて、ほかの映画館では観ることのできない、良質の作品が多数上映されています。
また、日本で初めて各回完全入れ替え制、定員制を実施したのも岩波ホールです。当時の映画館では、観客は好きな時間に入退場でき、定員を越えた場合は立ち見をすることが一般的でした。映画は大衆娯楽という位置づけだったのです。映画を文化的に価値のある芸術作品と見なし、じっくり鑑賞できる環境を整えたい。背景にはそんな目論見があったといいます。

●映画は多様性を伝えるメディア
岩波ホールには「エキプ・ド・シネマの会」という会員制度があります。会費は2年分で2,000円。会員になると優待価格で映画を鑑賞できるほか、「エキプ・ド・シネマ便り」が届きます。岩波ホールに20年近く勤める矢本理子さんは、「数十年通い続けてくださっている方が多い」と話します。
「普通の映画館とは違って、平日昼間が一番混むんです。引っ越しやお体の事情でもう行けなくなったとお手紙をくださる方や、足を運ぶことはできないけど便りが楽しみだから会員を続けると言ってくださる方もいます。本当に、ありがたいことですね」。
「普通の映画館とは違って、平日昼間が一番混むんです。引っ越しやお体の事情でもう行けなくなったとお手紙をくださる方や、足を運ぶことはできないけど便りが楽しみだから会員を続けると言ってくださる方もいます。本当に、ありがたいことですね」。

訪問したのは平日昼間でしたが、実際に客席は8割方埋まっていました。岩波ホールに通うことが長年の習慣になっている人も多いのでしょうね。休日や夜には若者の姿も増えるそうです。
「映画って、多様性を伝えるメディアだと思うんです。たとえば、気になっているけど少し難しいテーマの本を1冊読むのって、ちょっと苦労しますよね。でも、映画の場合は2時間黙ってスクリーンを観ていれば、ある程度の内容は掴めるんです。昔起こった出来事や、海外の思想・価値観。時間も空間も飛び越えてさまざまなものの見方を教えてくれるのが映画のすばらしいところです。
映画を観ない人が増えると、他者や世界への興味関心や知的好奇心が薄れてしまうと気がします。それってすごく悲しいことではないでしょうか。面白くて意義のある映画を上映し、多様性を伝える橋渡しをすること。それが私たちの役割だと思っています」。
「映画って、多様性を伝えるメディアだと思うんです。たとえば、気になっているけど少し難しいテーマの本を1冊読むのって、ちょっと苦労しますよね。でも、映画の場合は2時間黙ってスクリーンを観ていれば、ある程度の内容は掴めるんです。昔起こった出来事や、海外の思想・価値観。時間も空間も飛び越えてさまざまなものの見方を教えてくれるのが映画のすばらしいところです。
映画を観ない人が増えると、他者や世界への興味関心や知的好奇心が薄れてしまうと気がします。それってすごく悲しいことではないでしょうか。面白くて意義のある映画を上映し、多様性を伝える橋渡しをすること。それが私たちの役割だと思っています」。

もし、「最近映画館に行ってないなぁ」と思ったら、岩波ホールへ出かけてみませんか? スタッフと観客に愛されて時を重ねてきたこの場所の空気は、「映画館で映画を観る喜び」を思い出させてくれるに違いありません。

(文:飛田恵美子)
(撮影:山崎瑠惟)
(撮影:山崎瑠惟)
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