横丁と名のつく通りが多い神楽坂ですが、中でも地域最大級と言える本多横丁。人通りも多くて活気あるこの通りが軽子坂と交わる交差点に立つと、右手前に、シンプルで目を引くのれんのお店が目にとまります。

また目線を下に落とすと、「本日のおすすめ」から始まる黒板書きがレストランのよう。

有名な飲食店が多数軒を連ねる本多横丁を歩いてきたものだから、連鎖反応的に「ここも何だかおいしそう」なんて一瞬思ってしまいそうですが、実際には織物を扱うお店なのです。

和織物のセレクトショップ、kukuli。伝統的な景観を残しつつも、何かと洒落たこの街の雰囲気にフィットする各種品揃えで、地域の人からの支持も厚いお店です。
店頭には、和の伝統製法を受け継ぐ国内の古参メーカーが手がけたもので、かつ現代の暮らしに違和感なく、むしろ積極的に使いたくなる良品を、という観点のもと、選りすぐられています。
違和感のあまりのなさに驚くアイテムの好例はこちらのポーチやバッグ。これらのチェック柄、実は江戸時代以来、歌舞伎の世界に伝わるデザインだというのです。
店頭には、和の伝統製法を受け継ぐ国内の古参メーカーが手がけたもので、かつ現代の暮らしに違和感なく、むしろ積極的に使いたくなる良品を、という観点のもと、選りすぐられています。
違和感のあまりのなさに驚くアイテムの好例はこちらのポーチやバッグ。これらのチェック柄、実は江戸時代以来、歌舞伎の世界に伝わるデザインだというのです。

この「弁慶格子」という模様は、特定の演目で弁慶が身につける衣装で使われているもの。代々にわたり実際のその衣装自体を制作し続けてきたメーカーによる一作とのことで、違和感なくごくごく自然に和洋が調和している様子があまりに見事です。
他に、これまた古参の柔道着メーカーの手による、柔道着の生地だけでできたトートバッグも。
他に、これまた古参の柔道着メーカーの手による、柔道着の生地だけでできたトートバッグも。

近づいてよく見ると、刺し子織りの様子が確かに柔道着そのもの。持ち手の部分には黒帯がそのまま使われていて、そのシックな見た目からすると、ただただ意外。歴史ある柔道着メーカーで頑丈さも折り紙つきということで、デザイン性と機能性が高度に両立した一品です。
そんな、プロダクトが持つストーリーに目から鱗が落ちるようなアイテムだけでなく、繊維の質感、織りの工夫、鮮やかさで目を引くものもいろいろ。例えば注染(ちゅうせん)染めの手ぬぐいの、この色合い。
そんな、プロダクトが持つストーリーに目から鱗が落ちるようなアイテムだけでなく、繊維の質感、織りの工夫、鮮やかさで目を引くものもいろいろ。例えば注染(ちゅうせん)染めの手ぬぐいの、この色合い。

各種ストールも。秩父銘仙織りの、月の満ち欠けをモチーフにしたこの一品にはスタッフの佐藤さんも「コンセプトといい、色と柄が相まってとても素敵な感じですよね」と改めてその良さに感じ入っている様子。絹のものをはじめとして、一様にとてもしなやかです。


ちなみにお店の床は、打ちっ放しのグレーの色。かつて駐車場だった時の面影をあえて残しています(マンホールすらそのまま)。硬くて光沢のあるその質感が、和な製品を取り揃える舞台装置としては斬新で映えます。こちらのお店を開いたオーナー・加藤さんが実はデザイナーでもある、というのも納得の、独特の世界観。

ナチュラルでモダン、でも決してありきたりではないこんなお店空間なら、目の前の商品をじっと見つめるうちに、着回しのインスピレーションも湧いてきそう。

全身和装ありきでコーディネイト、だとハードルが高く気後れするという人であっても、和のリアルと美しさをごく自然に取り込む生活、kukuliならきっと始められそうです。

(文:古谷大典)
(写真:小島沙緒理)
(写真:小島沙緒理)
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