時として、意外な場所に名店を見つけてしまうことがあります。
東京都心のビジネス街の広がりは京橋や茅場町はもちろん、さらに遠くの水天宮前駅を超えたあたりまで続くものの、マンションを中心とした住宅も徐々に目立ち始め、隅田川の手前までくるとほぼ完全にスーツ姿の人を見かけなくなります。
東京都心のビジネス街の広がりは京橋や茅場町はもちろん、さらに遠くの水天宮前駅を超えたあたりまで続くものの、マンションを中心とした住宅も徐々に目立ち始め、隅田川の手前までくるとほぼ完全にスーツ姿の人を見かけなくなります。

そんな、性格の異なる街と街の境目があたかも目に見えるかのような箱崎町の一角に「食堂アサノ」はあります。目の前が隅田川の土手という立地もあって、ここいらに住む人・働く人でなければ、迷い込んだりしてしまう以外にこの店構えを目にする機会はまずないはずです。

しかしここが、素晴らしく充実した家庭的な定食がいただける場所なのです。店の前に立つなり、おぼろげながら伺える店内のようすに、なんとはなしにでも良い気配がするというあなたは、その勘に自信を持ってよいのかもしれません。

お揃いのボーダー女子たちが互いに連携して手際よく作ってみせる、例えばこんな「照り焼きつくね定食」。ふつうであれば焼き鳥?というイメージのつくねですが、ここのは豚のひき肉を広げて平らにしたもの。卵黄をのせてつぶせばまろやかな味わい。

メインのおかずは言うに及ばず、小鉢や漬物もそのいちいちが味わい深く、確かな存在感。この定食で言えば、例えばレンコンの歯触りがなんだかとてもいい塩梅。シャキシャキ、しっとりのどちらに偏るでもなく、むしろその中間にあるというか、無理やり擬態語をひねり出すなら「ハミハミ」とでもいうべき、珍しい噛みごたえです。「クセになる」なんてあまりに使い古されたフレーズですが、アサノのレンコンには、本当に、繰り返し繰り返し、噛んでみたくなる魅力があります。

またこんな「焼きさば定食」も。パリッとした皮のサバといい、何もかも、仮に腹ぺこでなくても五臓六腑に優しくしみわたってくるような味わいです。
こんなに質の優れた定食を日々作ることができるアサノで、店長をつとめる櫻井さん。彼女とその同僚たちは、実はかつて銀座の知られざる名店で腕を鳴らした者同士。彼女たちが見せる息の合ったコンビネーションもその時代以来のものなのです。
こんなに質の優れた定食を日々作ることができるアサノで、店長をつとめる櫻井さん。彼女とその同僚たちは、実はかつて銀座の知られざる名店で腕を鳴らした者同士。彼女たちが見せる息の合ったコンビネーションもその時代以来のものなのです。

かつて銀座七丁目にあった、その名もシンプルな「銀座ライス」。きらびやかで何かとよそ行きな銀座の街において、(このアサノのように)肩ひじ張らずにいられる雰囲気と、確かな腕前の女性たちが手がける定食ごはんは、近隣の高級クラブの従業員やその客、それにテレビ/マスコミ業界の人たちからも大変に重宝され、根強い固定客を獲得するに至りました。
そんなお店での立ち上げを含めた10年間の経験、お店を通じて得た人のつながり、一緒に店内イベントも仕掛けたりするアクティブな仲間といった財産を手に、さて新たな道を、と模索していた彼女。中学・高校を過ごした北海道時代の同級生との縁もあってその後開くことになったのが、この「食堂アサノ」です。
そんなお店での立ち上げを含めた10年間の経験、お店を通じて得た人のつながり、一緒に店内イベントも仕掛けたりするアクティブな仲間といった財産を手に、さて新たな道を、と模索していた彼女。中学・高校を過ごした北海道時代の同級生との縁もあってその後開くことになったのが、この「食堂アサノ」です。

北海道は当別町にある浅野農場の豚肉や野菜を使った家庭料理を、というコンセプトで2年前にスタート。みな小さい子どもを抱えていることもあり、いま現在は7~8種類の定食を展開する平日のランチ営業とお弁当をメインに、夜も事前相談で都合がつけば土日含め営業というスタイルで続けられています。

ランチでその味をすっかり気に入ってしまったあかつきには、同僚や友人同士でワイワイしながら、充実の和洋惣菜に舌鼓を打つ夜も楽しみになってくるはず。ぜひ問い合わせてみては(夜の営業は要相談。8名以上)。

ちなみに、土手を越えればそこは隅田川。腰掛けるベンチも綺麗な隅田川テラスで食べるアサノの充実お弁当は、景観まるごとおいしくて、これまたおすすめです。よく晴れた日の、空と水の青々とした眺め。


(文:古谷大典)
(写真:小島沙緒理)
(写真:小島沙緒理)