月明かりがやさしい夜には、いつもこんな風に過ごしてみたい。そう思える場所や時間がすんなり挙げられる人は、きっとしあわせ。そしてそんなとっておきのひとときは、常に鮮明な「イメージ」としてその人の心の奥底に秘められている。そういうものかと思います。

初台にある小さなお店「マチルダ」の良さを知る人にとって、駅を出てすぐの緑道沿い、人もまばらで薄暗いこの光景は、さながらおとぎ話のプロローグのようなもの。
その店名、それにこのお店の持つ小部屋的な雰囲気といい、なんだかひとつの物語がそこに展開されているかのようでつい、「マチルダさんのお部屋」へ繰り出す自分を意識しつつお店に向かってしまうのです。
その店名、それにこのお店の持つ小部屋的な雰囲気といい、なんだかひとつの物語がそこに展開されているかのようでつい、「マチルダさんのお部屋」へ繰り出す自分を意識しつつお店に向かってしまうのです。


扉を開けたその先には、物語の主人公マチルダ、ではなくて店主・町田洋子さんの姿。

カウンター7席限りのこぢんまりとした空間に夜ごと舞い降りる素敵な時間は、ヴァン・ナチュール(自然派ワイン)と小料理が織りなすおいしさ、耳に気持ちにこころよいBGM、そして時おり響く笑い声とともに。こういったものが分かちがたく結びつきマチルダという場の魅力となっています。

今日はさっぱりといきたい気分です、などというこちらの希望を踏まえ「それでは」と彼女が少し考えてワインをセレクトしてくれるのを待つ瞬間は、さながらドラえもんが四次元ポケットから道具を取り出すのを見守るような気分。

「このアルザスは、はなやかな花束みたいな。それも大っきいのじゃなくて、野に咲く小さな花で出来た花束っていう感じです」なんていう例えとともに二つ三つ提案された中から、じゃあこれをと選び、いただく一杯のワイン。
その例えが意味するところを、ちょっとイマジネーション膨らませつつ味わい、探っていくのはなかなか楽しいあそびです。
2010年にお店を始めた当初はバーっぽくワインをメインに据えていたものの、次第に料理のラインナップを拡大。かつて洋菓子屋さんや料理教室をやっていたこともある彼女が作る洒落た小料理の数々もまた評判を呼ぶようになって今に至ります。
特にフルーツを扱う料理が常連さんからことごとく高い評判を得ているあたりは、さすがは元洋菓子屋さん。
その例えが意味するところを、ちょっとイマジネーション膨らませつつ味わい、探っていくのはなかなか楽しいあそびです。
2010年にお店を始めた当初はバーっぽくワインをメインに据えていたものの、次第に料理のラインナップを拡大。かつて洋菓子屋さんや料理教室をやっていたこともある彼女が作る洒落た小料理の数々もまた評判を呼ぶようになって今に至ります。
特にフルーツを扱う料理が常連さんからことごとく高い評判を得ているあたりは、さすがは元洋菓子屋さん。

出来上がった一品をカウンターに差し出すときの、口角のキュッと上がったその表情は、いただくこちら側が「うん。おいしい…!」と言うようすを早くも思い浮かべているかのよう。しあわせをおすそ分けしてもらうような気持ちで受け取ったひと皿は、どんな料理であれ、どこか一貫した優しさをたたえているようです。

こちらは「豚肉と香味野菜のリエット(パン付)」。上に乗ったピンクペッパーが見た目にもかわいいアクセント。パクチーも一緒にサンドして、バインミーのようにいただくのも美味。

量的にしっかりめにいただきたい時のメニューも。こちら「美桜鶏 手羽元クリーム煮」は、鶏肉のほろほろほぐれる柔らかさといい、まろやかな口当たりでとても優しい感じ。しばし無言になってしまう味わいです。

リエットといいクリーム煮といい、ひと皿ひと皿、器のセレクトも含めたトータルなたたずまいには、いつも「らしさ」がそこにあるような。マチルダの料理は常にマチルダ的です。グラタンや煮込み系の料理をこんなシチュエーションで頂く冬の夜なんて、グッとくること必須でしょう。
この場所で別の店をやっていた知人から、この味わい深い物件を引き継ぐかたちでお店を始めたという町田さん。過去にやった洋菓子店とも商売の勝手が違うけれど、それ以上に大事だったのは、「仕事の変えどきかな」と思いかけていたそのさなかに、こんな珍しい物件引き継ぎのオファーがあったという縁。
洋菓子屋さんのときの屋号をそのまま生かした「マチルダ」という店名をはじめ、心機一転の気持ちでとり揃えたパズルのピースがもろもろハマり過ぎているのですが、ここにやってくる人が愛でているのは、そんな町田さんのアンテナと手しごとでつくられている時間そのものなのでしょう。
この場所で別の店をやっていた知人から、この味わい深い物件を引き継ぐかたちでお店を始めたという町田さん。過去にやった洋菓子店とも商売の勝手が違うけれど、それ以上に大事だったのは、「仕事の変えどきかな」と思いかけていたそのさなかに、こんな珍しい物件引き継ぎのオファーがあったという縁。
洋菓子屋さんのときの屋号をそのまま生かした「マチルダ」という店名をはじめ、心機一転の気持ちでとり揃えたパズルのピースがもろもろハマり過ぎているのですが、ここにやってくる人が愛でているのは、そんな町田さんのアンテナと手しごとでつくられている時間そのものなのでしょう。

「すごく忙しいときとか、必死すぎて形相がちょっとアレなこともあるかもしれないですけど(笑)」なんて本人は言うけれど、ご近所さんも常連さんも、そんな人間らしさもまた込みでマチルダでのひとときを楽しんでいるはず。
ワインがすっかりまわって、夜も更けて、「今日もいい一日だった」と思えるひとときがここにはあります。
ワインがすっかりまわって、夜も更けて、「今日もいい一日だった」と思えるひとときがここにはあります。

(文:古谷大典)
(写真:小島沙緒理)
(写真:小島沙緒理)