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心に響く物語を紡ぐこと約半世紀。「プーク人形劇場」でつかの間、夢を見る

good mornings

公開日 2018年10月3日

新宿西口方面にあるその劇場は、来年で創立90年にもなる「人形劇団プーク」のいわばホームグラウンド。子どもも大人も、みんな等しく夢を見る、そんなひとときが過ごせるしあわせな空間です。

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年季とともにどことなく暖かみを感じさせる、全部でわずか100席ほどの小さな劇場。舞台のサイズがまたコンパクト。1971年のオープン以来、約半世紀に渡って様々な人形芝居が繰り広げられてきたこの空間で、今日もまた、満員近い観客が開演を心待ちにしています。
この日上演されたのは、この劇場をお膝元とする人形劇団プークが、ブルガリアのソフィア人形劇場と共同してつくりあげた作品『カモメに飛ぶことを教えたドラ猫の物語』。人形劇文化の盛んな東欧の有名劇団とのコラボレーションとあって、いつもよりスペシャル感のある公演です。

ストーリーの主人公は、港をねぐらとするオスのドラ猫「ゾルバ」(画像いちばん左の青い猫)。彼が、重油にまみれて瀕死状態にある母カモメに託され、その産み落とした卵からかえったひな鳥「フォルトゥナータ」に、飛ぶことを教えるという物語です。

羽根も生えていなければ食べものも違うなど、何かと勝手が異なるという困難の中で、仲間の猫たちと手を取り合いひな鳥を育て、手取り足取り飛べるように訓練を施す。苦労が報われ、最後にひなは力強く大空へと羽ばたいていく、という一連のサクセスストーリーは、異文化コミュニケーションの大切さを暗示しており、また同時に環境問題への警鐘を鳴らすものでもあります。
人形劇と聞けば、パペットのような小さなモノが細やかな動きを見せる様子をとっさにイメージしてしまうところですが、このとき舞台で目のあたりにしたのは、演者の意外なほど大きな存在感。前足やしっぽを模した蛇腹のチューブ、それにお面の向きだけで猫があらわされ、それを操る演者の身体や顔がむき出しというその絵が、見慣れない者にとってはただただ意外です。

しかし、ほどなくして、それが何の問題もなくごく自然に感情移入できるようになるのだから不思議なもの。

舞台狭しと動き回る猫(チューブの伸び縮みするしなやかさが実に猫的)やカモメ自体の動きを見つめ、それを操る演者の声や表情に慣れてゆくにしたがい、やがてその中にそれら登場人物のいきいきとした内面を感じとれるようになるのです。
一時間に渡った劇の終演後には、演出のカティア・ペトロヴァ氏(中央やや右の女性)、作曲/音楽のストヤン・ロヤノフ氏(後方の背の高い男性)のふたりが登場して舞台挨拶。

チューブで猫のからだを表現するアイディアしかり、BGMや幕間の音楽をひとりの演奏者の生演奏で表現しきる(口ドラムや数々のパーカッション、アコーディオンその他さまざま楽器で)音楽的アプローチしかり、ともに彼らの貢献があってのことでした。
チューブというシンプルきわまりない小道具を猫の体やしっぽに見立て、そこに血の通った登場人物の姿をしっかりと見ることができるのはつまり、目の前の舞台ではなく観客各自の心の中でこそ、作品は作品として完結するということ。

文字にすると難解なようですが、公演が終わり客席を後にする子どもたちのとても満足そうなようすを見るに、それは実はとてもシンプルで普遍的な、人間らしい心の営みのなせるわざなのでしょう。

この日ゾルバ役を演じた団員の小立哲也さんも、最後の公演、それも大勢のお客さんからの拍手喝采で現場を終えることができて安堵の笑み。
まっすぐ伸ばせば2メートルほどもあろうかという長さのチューブを巧みに扱い、大きく跳躍したり、時には困った仕草をしてみせたり。

情感のこもった声も含め、体と心を総動員してゾルバという存在を舞台空間に現出させてみせた彼ですが、「カシラ(お面)の向き。舞台上の自身の位置はもちろん、物語の局面からしてふさわしい向きになっていること」が感情移入してもらうためのコツなのだそうです。
心温まるお芝居が、関連の講演会なども含め年間のべ200本ほども行われるプーク人形劇場は、日本の人形劇界にとってのメッカ的な存在と言えそうですが、建物の外観もまた業界としての長い歴史を感じさせるものになっています。
5階建ての縦長のファサードを見上げれば、1929年の創立以来、劇団としての名称が様々に移り変わることを示すレリーフ。壁面全体を埋め尽くすようにして施されています。

かつて戦前には「裸の王様」がそのストーリーの内容からして不敬罪にあたるとみなされ上演を禁じられることもあったなど、その道のりは必ずしも平坦ではなかったことをしのばせる眺めです。
人形劇団プークが誕生した1920年代は、第一次世界大戦への反省のさなかにあった時期。芸術の世界でもそういう時代のムードを反映する作品が分野を問わず登場していたという背景もあり、プークでは現代に至るまで一貫して、全ての人々の平和と幸せを希求する精神のもとに活動が展開されています。
劇そのものや劇場空間に限らず、受付やカフェ、展示スペースといった施設全体にどことなくにじみ出ているある種の穏やかさも、プークのそのような姿勢があってこそのものなのでしょう。
(文:古谷大典)
(写真:小島沙緒理)

プーク人形劇場

住所
東京都渋谷区代々木2-12-3
電話番号
03-3379-0234
最終更新日:2018.6.21
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