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谷中でいちばん、輝いている手しごと | オリジナルジュエリー「LIME LIGHT」

good mornings

公開日 2018年9月28日

民家に混じってお店がぽつぽつと姿を見せる谷中キッテ通り。町の空気によく馴染んだそれら店々の中には、この土地生え抜きの彫金職人さんによる、精緻な手しごとが文字通り「光る」お店も。

エリア
谷根千
千駄木駅
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戦火を免れた家屋が数多く残る谷根千の一帯。ここを歩けば、豆腐屋さん然り、市井の人々の暮らしや住まいがその生業(なりわい)と密接につながっていた、そういう時代がかつてあったことを思い起こさせる光景によく出会います。

その一方で、ルックスこそ新しいけれど、実は代々この地域に暮らし続けてきた職人さんのお店であるケースもまたあったりします。古い家屋がこの町の歴史の全てではないというわけです。
谷中キッテ通りの中ほど、軒先の小さなショーウィンドーから指輪や首飾りがこちらにささやきかけるように輝くLIME LIGHT。これらのアイテムは全て、まさにこの奥にある工房で作られたものです。
ドアを開けた先のショールームのそのまた奥で、日夜ジュエリーづくりに励む稲田和哉さん。プラチナや金といった金属を素材にして彫って造形・描画する彫金(ちょうきん)と呼ばれる技術を専門とする職人さんです。
古くは刀剣や甲冑に始まり、やがて時代が下ってかんざしやアクセサリーといった装身具づくりの場で今も発揮される、この伝統技術。

稲田さんは、亡き祖父・三郎さんが明治期からの技法を1920年に江幡美俊に師事して以来の職人の家系。徒弟制度というものが絶えて久しい今、江幡派の系譜を継ぐ数的にごく限られた職人なのです。

作業の各種工程で求められるのは、ミリ単位以下の繊細さ。メインとなる工程のひとつ、彫りの作業では、まず絵柄の下書きを施し、その線の上に左手で持った鏨(たがね)の先を当てがい、右手に持ったごく小さなトンカチでトントンと小刻みに叩いていきます。
ひと呼吸する間隔に呼応するように、9〜10回をひとまとまりにして優しく鳴る「トントントントン…」という音。しだいに大きくなり、やがて引き際に向かって緩やかに小さくなっていく抑揚を伴っています。これに続き、打った手応えを目視で確認する間はしばし無音状態。これの繰り返しです。

その聴き心地は、秋の夜長の鈴虫の音、あるいは静寂を割って入るししおどしのあの「カポーン」にもよく似ていて。

その昔、稲田さんが小さな子どもだった頃の何よりの子守唄だったという、この音。茶の間で子どもが遊ぶ傍ら、黙々と作業を続ける父・母・祖父の姿が常にそこにあった、そんな家庭だったのだそう。
わずか0.2ミリごとに幅が異なる、十数種類もの鏨を巧みに使い分けるほどの、実にミクロな手わざの世界。そのような技術の結晶の数々がショールームに陳列されています。

そこには、とても小さいながらも視線をしかと釘付けにする、濃密な輝きの数々が。
作家としての彼の探究心の粋とも言えるのが、「江戸Brilliant」と名付けられたこの新作。江戸切子の直線的な刻みと江戸彫金の匠という、江戸/東京の文脈に根ざした二つの技術が同居する、菊の花をあしらった意匠です。
ミクロなレベルのきらめきが密なことこの上なく、ただただ、ため息ばかりが漏れてしまいそう。

またこの他、ひもの結び目の持つビジュアルに魅せられたことをきっかけにつくったという作品も。元は単なる平らな地金に過ぎなかったものが、本物のひもと見まがうばかりのリアルな質感を備えるまでに変身した様子にご注目です。
作品のデザインにあたっては何がしかの動植物をモチーフとすることが多く、それを中心に据えつつ抽象的な模様なども交えて作り上げるのが、稲田さんのやり方。

それもゼロベースで手を動かし始めるのではなく、祖父やその師匠から伝わる貴重な図案帳(過去の作品を版画にするかたちで残したもの)を眺めては、それを参考に作り始めるのが常です。
自然が大好きな日本人らしく、草木や鳥といった身の回りの動植物に対する繊細な観察眼を感じさせる図案の数々。中にはあの横山大観の作になるものもあるとのこと。

こういったものが多数収められた何冊もの図案帳は、「技術向上にあたっては、ここに集めた図案をもっぱらの稽古材料とすべし」と教わる江幡派の末裔にとっては、座右の書とでもいうべきものです。
「ひと彫りひと彫りを重ねていくその度に、姿を変えていくのが楽しい」という稲田さんのピュアなものづくり精神は、職人の家の生まれならでは。気負いなく、ごく自然体にものづくりに臨んでいる模様です。

ちなみにお店があるまさにこの場所は、かつて近隣一帯が焼け野原となっていた終戦直後、周囲に先駆けるかたちで住まい兼工房を建てて以来のもの。静かな民家がたくさん立ち並ぶ今、雑貨屋さんやカフェなど個々に魅力あるお店が点在する谷中キッテ通りの一員として、LIME LIGHTもまたこの通りのPRに意欲的です。
4月と10月に催されるキッテ通りのイベント「水玉市」にも出展したり、またお店を出てすぐ左手にはチラシ置き場を設けていたりも。近所の台東谷中郵便局への日頃からの感謝の気持ちも込めて「切手」→「キッテ」と命名するセンスに象徴されるように、この通りの店々が地域に対して抱くハートフルなこころは彼もまた共有するところです。

折しもことしは、お店がオープンして二十周年の年。記念すべきアニバーサリーイヤーである今年のうちに完成させたい新作もあるとのことで、2018年の残りも充実した忙しさの日々を送ることになりそうなLIME LIGHTです。

(文:古谷大典)
(写真:小島沙緒理)

LIME LIGHT(ライムライト)

住所
東京都台東区谷中2-15-12
電話番号
03-3821-3028
営業時間
13:00~19:00
定休日
日曜日、月曜日
最終更新日:2018.11.12
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※紹介されている情報は、記事公開当時の内容となります。
※飲食店情報の平均予算は、食べログの店舗基本情報を引用しています。