鬼子母神の近隣に広がるちょっとした商店の並びを過ぎて明治通りに出れば、そこはもう目と鼻の先。
「古書 往来座」がいいのは、いわゆるまちの古本屋でありながら映画関連、特に旧作邦画ものが充実しているのと、敷居の低い趣味性が遺憾なく発揮されていて、それを目の当たりにするにつけ、こちらの心もおのずとやさしく、おおらかになってくることです。
「古書 往来座」がいいのは、いわゆるまちの古本屋でありながら映画関連、特に旧作邦画ものが充実しているのと、敷居の低い趣味性が遺憾なく発揮されていて、それを目の当たりにするにつけ、こちらの心もおのずとやさしく、おおらかになってくることです。


どれだけ無目的で立ち寄ろうと、何かしら必ず心に引っかかるものが見つかっては、ああ本屋って面白い、と普通に書店めぐりの充実感を覚える店内。
なのですが、棚の一角には懐かしのVHSパッケージの作品もたくさん並んでいたりして、いくら何でも昔過ぎるとはいえ心の何ミリかは「再生用デッキ、とっておけばよかったかも」とか、2018年のご時世、ほかのお店では生まれようもない後悔の気持ちを味わわされたりも。
なのですが、棚の一角には懐かしのVHSパッケージの作品もたくさん並んでいたりして、いくら何でも昔過ぎるとはいえ心の何ミリかは「再生用デッキ、とっておけばよかったかも」とか、2018年のご時世、ほかのお店では生まれようもない後悔の気持ちを味わわされたりも。

さらによく見て回れば、お店からの説明としては「古道具」ということでストレートにまとめられてはいるものの「いや待て」とツッコミたくなるものが店内各所、本棚の脈絡とはおよそ無関係にそしらぬ顔でたたずんでいたりもします。
例えば、出張買取のおり廃業した町医者から仕入れたという、薬瓶の類や注射器。それも相当昔にまでさかのぼるものと思われるのが。
例えば、出張買取のおり廃業した町医者から仕入れたという、薬瓶の類や注射器。それも相当昔にまでさかのぼるものと思われるのが。


さらには診察台も。

またある時、どこの馬の骨ともつかぬレントゲン写真を、若い女性が購入していったこともあるとのことですが、その使い道やいかに。
またある所では、草野球の好きな店主の趣味を反映したプロ野球の応援グッズがいくつか、タンスの上に生活感を伴いつつ置かれていたり。あ、昔こういうのあったな、なんて感慨深さをもよおす古めかしさという点が、共通項といえば共通項。
またある所では、草野球の好きな店主の趣味を反映したプロ野球の応援グッズがいくつか、タンスの上に生活感を伴いつつ置かれていたり。あ、昔こういうのあったな、なんて感慨深さをもよおす古めかしさという点が、共通項といえば共通項。

あげくの果てには、ただの枝までも。「パチンコに使えるぞ」と、タグに書かれた図解には少なからぬ自信がにじんでいます。

こういったもろもろを見て回るうちに、脱力を通り越してむしろ楽しくなってくるのが人情かと思います。
お店を手がけているのは、主としてこのふたり。
お店を手がけているのは、主としてこのふたり。

(注:本人の掲載許諾を得ております)
向かって右、目がイっているのが店主の瀬戸さん。同じく左、スタッフの野村さん改め、のむみちさん。
西池袋・東京芸術劇場の中にあった書店「古本大学」をその前身とし、2004年にこの場所にオープン。出自がら、当初から音楽、映画、舞台、演劇関連の書籍が多かったこのお店ですが、
その後、特に映画本の買取りが充実するようになって今に至ります。
上述したようなアイテムや陳列のセンスが瀬戸さんの仕業によるところ大である一方で、のむみちさんはのむみちさんで彼女の個性を大いに発揮中。
彼女、10年ほど前に常連客から勧められたのをきっかけに旧作邦画にハマり、都内名画座5館のタイムテーブルを手書きで詳述した今も続く月間のフリーペーパー『名画座かんぺ』を発刊、後に週刊誌に連載を持ち、ことし5月には初の著作もリリースしたという名画座フリークなのです。
西池袋・東京芸術劇場の中にあった書店「古本大学」をその前身とし、2004年にこの場所にオープン。出自がら、当初から音楽、映画、舞台、演劇関連の書籍が多かったこのお店ですが、
その後、特に映画本の買取りが充実するようになって今に至ります。
上述したようなアイテムや陳列のセンスが瀬戸さんの仕業によるところ大である一方で、のむみちさんはのむみちさんで彼女の個性を大いに発揮中。
彼女、10年ほど前に常連客から勧められたのをきっかけに旧作邦画にハマり、都内名画座5館のタイムテーブルを手書きで詳述した今も続く月間のフリーペーパー『名画座かんぺ』を発刊、後に週刊誌に連載を持ち、ことし5月には初の著作もリリースしたという名画座フリークなのです。

これがその週刊ポストの連載「週刊 名画座かんぺ」。名画座通いする老若男女を自分のクラスメイトに見立てたようなそのコーナー名がほほえましい…。
特に旧作邦画を愛する彼女。映画に限らず、当時の雑誌や大衆小説にも手を出しては、戦前/戦後を問わず昭和に通底するあの時代特有の感性や情緒に触れる日々を送っています。
確かに、今の日本が失って久しい、もはや外国以上に外国とでもいうべきその世界にじっくり親しむ喜びを、「懐古趣味」の四文字で安易に片付けてしまうなどあまりに無粋。それは、ひとりの女性が五年十年と日々没頭し続けるに値する何かです。
特に旧作邦画を愛する彼女。映画に限らず、当時の雑誌や大衆小説にも手を出しては、戦前/戦後を問わず昭和に通底するあの時代特有の感性や情緒に触れる日々を送っています。
確かに、今の日本が失って久しい、もはや外国以上に外国とでもいうべきその世界にじっくり親しむ喜びを、「懐古趣味」の四文字で安易に片付けてしまうなどあまりに無粋。それは、ひとりの女性が五年十年と日々没頭し続けるに値する何かです。

彼女の本気がわかるさらなる例がこの「名画座手帳」。彼女が企画・監修するこの手帳、初めて製作した2016年度版から数えて通算4作目の2019年度版が去る10月に無事発売されています。
https://meigazatecho.blogspot.com
表紙の帯には、映画人および映画にも精通する各界著名人の手書きメッセージが掲載。2017年度版であれば小西康陽氏や太田和彦氏といった彼女の名画座仲間、さらにはかの若尾文子氏も。そうそうたるメンツであることからも、この世界を愛する彼女の本気度とそれに対する評価の高さがみてとれます。
https://meigazatecho.blogspot.com
表紙の帯には、映画人および映画にも精通する各界著名人の手書きメッセージが掲載。2017年度版であれば小西康陽氏や太田和彦氏といった彼女の名画座仲間、さらにはかの若尾文子氏も。そうそうたるメンツであることからも、この世界を愛する彼女の本気度とそれに対する評価の高さがみてとれます。

書店空間にしろスタッフにしろ、普通であれば何かとペダンチックなイメージが先行してはちょっと身構えてしまうところ。ですがこのお店に並ぶ本は「古道具」ともども、コンテンツとしての本である以前に、マテリアルとしてのたたずまいが先立っているというか、どこかおもちゃ的。そんな本屋さん、かなり珍しいかと。
ちなみに瀬戸さんの中では目下、「赤」がブーム。店内の電灯や扇風機を赤く塗ってみたり、誰も見向きもしない天井のダクト部分を一部だけ赤く塗ってみたり。「お金がちょっとあるときにできることをやる」というくらいの気軽さで取り組まれています。
ちなみに瀬戸さんの中では目下、「赤」がブーム。店内の電灯や扇風機を赤く塗ってみたり、誰も見向きもしない天井のダクト部分を一部だけ赤く塗ってみたり。「お金がちょっとあるときにできることをやる」というくらいの気軽さで取り組まれています。

いつしか店内が赤く染まり上がる日が来るとは到底思えない牛歩のペースのもと、いつまでこれが続くのか、はたまたすっかり心変わりしてまた別のブームが始まるのか。
事がどう展開しようと変わらず瀬戸さんを見守ってあげたくなった自分を意識した時には、もうあなたはこのお店のファンです。
(文:古谷大典)
(写真:小島沙緒理)
事がどう展開しようと変わらず瀬戸さんを見守ってあげたくなった自分を意識した時には、もうあなたはこのお店のファンです。
(文:古谷大典)
(写真:小島沙緒理)
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