代々木駅西口を出て北参道方面に向かう通りは、チェーン系を中心に各種飲食店が掲げる派手めの看板がたくさんの、賑やかな道。
情報量の多さにややたじろぎつつJRの踏切を越えて少し歩いた先に、各階に個性的なお店が入居する「エビデンワビル」の姿が見えてきます。
情報量の多さにややたじろぎつつJRの踏切を越えて少し歩いた先に、各階に個性的なお店が入居する「エビデンワビル」の姿が見えてきます。


シュール。
そしてこんなビルの3階にあるお店にこそ、要注目。「ここならでは」という味や雰囲気にいまひとつ乏しい代々木駅界隈にあって、かなり素敵な感じに異彩を放っています。
そしてこんなビルの3階にあるお店にこそ、要注目。「ここならでは」という味や雰囲気にいまひとつ乏しい代々木駅界隈にあって、かなり素敵な感じに異彩を放っています。

そこは、吹き抜けがあって光もよく入る、素敵な食卓。
壁の鏡にはフランス語の詩編。それに何やら船の小物なんかもところどころにあったりして、旅情を誘います。いや、もしくはたったいま架空の町のとある食卓へ、突然ワープして降り立ったかのようにも。
壁の鏡にはフランス語の詩編。それに何やら船の小物なんかもところどころにあったりして、旅情を誘います。いや、もしくはたったいま架空の町のとある食卓へ、突然ワープして降り立ったかのようにも。

なんでもこのお店、コーサカさん(下画像。日本人)が、ただいま航海中の船乗り、それも船の司厨(コック)であるお猿さん・サリューに代わってこのお店を切り盛りしている、というファンタジーあふれる設定です。

「猿」とフランス語の挨拶ことば・“Salut(サリュー)”をかけてみせるそのセンスには、知る人ぞ知る参宮橋のカレー店“Cumin”(キュマン。フランス語でカレーに必須のスパイス「クミン」の意)を知る人ならニヤリとせずにはいられないはず。そこもまた彼女お手製のカレーが話題を博したお店なのです(https://www.instagram.com/cuminbear/)。

そもそものCuminもまた、実際に二人の息子を持つコーサカさんの、架空の三男坊であるクマが店長。その後ことし7月に出店したここSalutは、そのクマのお友達の猿。
なんだかけむに巻かれてしまいそうな設定ではありますが、そんなファンタジーも決して嫌いじゃありません。
なんだかけむに巻かれてしまいそうな設定ではありますが、そんなファンタジーも決して嫌いじゃありません。

お猿のコックさんがつくる料理で船のり達は日々栄養を摂りつつ、目下、船は大海原を進んでいるんだよなぁとか、その他いろいろマリーンかつフレンチな空想を思い巡らせているとテーブルに運ばれてくるお手製料理は、例えばこんな「クスクス(鶏と野菜のトマトベース)」など。

ほろほろ柔らかく淡白な鶏肉がトマトスープのすっぱしょっぱさによく合うこと。クスクスのつぶつぶ感も、個々の蒸し野菜に残る野菜本来の食感も、奥のデリサラダについてくるカブのほんのわずかに余韻を引く甘さも、そのほかチャームポイントを数えだせばキリがありません。
この他、カレー(「野菜チキンカレー」・「キーマカレー」の2種。Cuminでいただくのと同一のカレー)にしろ「スパゲティミートソース」にしろ、スタンダードでありふれたメニューなだけになおさら「喫茶店で食べるあのおなじみの味」とのギャップの大きさに驚かざるを得ません。唸ることしきりです。
この他、カレー(「野菜チキンカレー」・「キーマカレー」の2種。Cuminでいただくのと同一のカレー)にしろ「スパゲティミートソース」にしろ、スタンダードでありふれたメニューなだけになおさら「喫茶店で食べるあのおなじみの味」とのギャップの大きさに驚かざるを得ません。唸ることしきりです。

デザートもござい。こちら、その名も「100%のチーズケーキ」なる一品は、コーサカさん自身が考えるこれこそ満点!なレシピでつくるチーズケーキ。サワークリームやレモンがしっかり酸味、出してくれています。

表面の焼きの入った部分は、色味から想像されるとおりの香ばしさ。さくりフォークを入れても倒れにくいのも見栄え的にナイスです。土台はグラハム粉や全粒粉を使い一からクラッカーを作ってクルミともども砕いたのが使われているという手の込みよう。
結果、100%と言われて差し出されることについて、けして異論なし!な一品となっています。
こういったいずれもが、小さい頃から料理が大好きだったという彼女が半生をかけて磨いたお料理テクとセンスのたまもの。グレードがとても高くて、でも高尚で近寄りがたい感じは全くないというこの絶妙なさじ加減、そうそう出会えるものではないと思います。
結果、100%と言われて差し出されることについて、けして異論なし!な一品となっています。
こういったいずれもが、小さい頃から料理が大好きだったという彼女が半生をかけて磨いたお料理テクとセンスのたまもの。グレードがとても高くて、でも高尚で近寄りがたい感じは全くないというこの絶妙なさじ加減、そうそう出会えるものではないと思います。

料理単体に限らず、器をはじめとしたもろもろも含めた食卓空間的魅力、心ゆくまで味わいたいものです。
(文:古谷大典)
(写真:井上綾乃)
(文:古谷大典)
(写真:井上綾乃)