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書に触れる。もの思う。享受するのは、静けさの豊かさ | fuzkue

good mornings

公開日 2019年1月13日

カフェでもバーでもなく「本の読める店」とうたう、初台のfuzkue(フヅクエ)。その空間に居合せる客はみな、フードやドリンク片手に、えもいわれぬ充実のひとり時間を長々と過ごしていきます。

初台駅
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今日はこれをしようと思い立って向かう店が、こんなにも静けさで包まれた場であることも、そうはないでしょう。

目で追い、心の中で声に出して読む、書物のことば。あるいは物思いにふける自分自身のことば。喉を潤す手元の一杯が、ひと口ひと口、その余韻がゆるやかな減衰曲線をたどっては消えてゆきます。
気がつくと、一方向的な時の流れの中にほどよい起伏を感じさせるような、音響的なBGM。

ふと「あぁ、とても贅沢な時間を過ごしている」と自覚する瞬間です。

意識せずとも腹の底から深呼吸を繰り返しては、身体は芯からすっかり緩み、頭も軽い瞑想状態。二時間、三時間とここで過ごすうちにやがてやってくる、このすこぶるリラックスした感覚こそが、fuzkue(フヅクエ)ならではの居心地というものです。
その時々で店内に居合わせる客同士、物理的にはその場を共有してはいる。いるのだけれど、あくまでひとりひとりが自己完結した小宇宙のように、気兼ねなく各々の時間を過ごしている。そんな稀有な生態系がここでは保たれるのです。
そしてそれは取りも直さず、この店の店主にして大変な読書家でもある阿久津 隆さんが「こんな場所があったら良いな」と、かねてから抱いてきた理想の読書空間を体現したもの。
窓側の席の頭上や、あるいはその逆を向いたカウンター側など、店内に設けられた棚には文庫本から判型の大きな写真集、それに彼のお気に入りのラテンアメリカ文学まで、つごう1,000冊以上にもなる彼の私物の書籍。店内ではこれらコレクションを自由に手に取って読むことも可能です。

「何も気兼ねしない豊かな一人の時間を過ごせる場所」という理想に忠実であらんとする彼のこころざしがよく伺えるのが、この『ご案内とメニュー』。

初めての利用者への挨拶がてら、客同士気持ちよく静かに過ごすための事細かな注意書きをも兼ねたような、本人いわく「ものすごくうるさくて、ありえないほど長い」前書き的ステートメントが10,000字以上にもわたって記されたのちに、やっとこさフードやドリンクの一覧が登場するという、面食らってしまうほどに風変わりな(そして分厚い)メニューです。

HP内「フヅクエでの過ごし方」からもそのエッセンスがわかります(http://fuzkue.com/about)。
しかしそこに綴られているのは、言葉を尽くすことで、理想の空間としてのあり方を誤解なく伝えようとする真摯な態度。それも押し付けがましいものではさらさらなく、ごく自然体な素の気持ちから語られているのが、目に見えて明らか。

そんなわけで、メッセージを受け取るこちらとしても、阿久津さんの人となりへの興味と共感の入り混じった、妙にすがすがしい気持ちで進んでお店を利用したくなるのです。
心おきなく読みふける愉しみをさらにもう一段階底上げしているのは、フードやドリンクの充実ぶり。読書のおともに頂きたいものは数知れないのですが、こんな阿久津さんお手製のチーズケーキもまた良いです。

口から鼻腔を通じて届いてくるバニラの香り。密に詰まったこの「黄色い固体」感と食べ応えが、全くもってチーズケーキの幸せ。三軒茶屋のOBSCURA COFFEE ROASTERSの豆を使って供されるコーヒーとのコンビで、充実の読書時間、準備万端です。
そしてお酒もお酒で、ビールにウィスキーもスコッチにバーボンに、各種選択肢が豊富な状態で一人飲みが楽しめもします。

仲間どうし言葉を交わしては笑い上戸・泣き上戸になるでもなく、ただひとり静かに酔い心地に浸るのもすぐれて幸せな時間でしょう。
客の平均滞在時間はおよそ2時間半。もっとも、くつろいで安らぎを得るというからにはある程度長居することが必要なわけですが、fuzkueでは滞在時間やオーダーした品数に伴うコストの上がり方がさほど気にならないよう、秀逸な席料の会計システムが敷かれています。

オーダーしたドリンク・フード・つまみの合計価格に応じて席料が一定程度安くなるように設定されており、4時間までの滞在であれば、ワンドリンクだけで済ませる人も、フード1点とドリンク2点オーダーする人も変わらず、およそ2千円程度のレンジに収まるような仕組みとなっているのです。
このお店を始めてただいま5年目を迎えている阿久津さん。fuzkueのHP上に書き溜めていたブログ的コンテンツ「読書日記」に加筆・修正が加わるかたちで、2018年の6月には初の著書「読書の日記」を刊行するなど、書にまつわる注目の人として、近年確実にお株も上がっているようです。
初めて体験する人にはきっと前代未聞ものの、静けさの質。

買ったはいいが永らく「積ん読」ばかりだった本を、今日こそ読み進めたい、読みふけりたいという方、まずはその環境をこのお店に定めてみるのがよいかと思います。昭和的な美容室の手前、足元に立つ黒い看板が目印です。
ひとり静かに過ごすことが、かえって豊かな時間。この空間が重宝されるのは、自宅に居てすらもなんだかせわしいこんな時代ならではの要請という気も。

“less is more”などと言いますが、その意味するところの極致をみるような、fuzkueの居心地です。文字通り、有難いお店。

(文:古谷大典)
(写真:小島沙緒理)

fuzkue(フヅクエ)

住所
東京都渋谷区初台1-38-10 二名ビル2F
営業時間
12:00~24:00
定休日
不定休
最終更新日:2019.1.8
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※紹介されている情報は、記事公開当時の内容となります。