人形町駅から浜町駅に向かう通り沿いにある甘酒横丁。人形町駅から地上に出ると、ほうじ茶の香ばしい香りがあたりに広がっています。香りに誘われてその先へ進むと、次のブロックにグレーの新しい建物が。置き看板が出ていなければ素通りしてしまいそうですが、実はここ、日本全国でたった4件しか残っていないというつづら専門店のうちのひとつ、「岩井つづら店」です。

岩井つづら店では、月に1度、原則第二土曜日と日曜日に「つづらやさんの和雑貨市」を開催しています。つづらのほか、店内にところ狭しと並んだ手作りの和雑貨を購入することができます。店内に入ると、作業場でもある小上がりに大きなつづらもずらり! まるで昭和にタイムスリップしたかのようです。


つづらやさんの和雑貨市は2014年にスタートし、もうすぐ50回目を迎えます。現当主(6代目)の岩井良一さんの弟、恵三さんとその奥様の直子さんが、ご兄弟や友人に声をかけて始めました。「お店の前を通ったことはあるけど、実際にお店に入ったことがない。つづらを見たことがない。」そんな人たちも気軽にお店をのぞき、つづらに触れてもらえたら…と、はじめは月に1日だけ、手探りで進めてきたそうです。

お店の外の看板に気づき恐る恐る店内をのぞくお客さんも、たくさんの和雑貨と「お気軽に見て行ってください~!」という直子さんたちの明るい声かけに、吸い込まれるようにお店に入っていきます。明治座や水天宮に足を運ぶ人が立ち寄ってくれることも多いとか。また、最近ではお店のHPやFacebookページのイベント情報をみて訪れる人も増えているそう。つづらの予約注文が入ることもしばしば。

ここでしか買えない和雑貨の一部をご紹介します。ガラスを溶かし、棒に巻き付けながら一つ一つ丁寧に作られたトンボ玉は、上品なかんざしやネックレスになります。中でも美しいバラの模様は、細かい花びらを1枚ずつ仕上げていくので、かなり技術が必要なのだとか。

トンボ玉を作るのは、岩井家の二女で良一さんの妹、恵三さんの姉、幸子さん。

手織りのマフラー・ストールは、すべてオリジナルの模様で、1つ作るのに1か月程度もかかるそう! 手触りが柔らかく、軽くて暖かい。色の種類も豊富です。

作り手と会話を楽しみながら選べるのも和雑貨市の魅力です。必ずしも購入にまで至らなくても、つづらに塗られたカシュー漆の独特の香りのなか、にこやかな恵三さんたちと他愛ないやりとりをするだけでほっこりとした気持ちになります。

手織りのマフラー・ストールは幸子さんの友人、松永さん(右)が作ります。
そもそもつづらは、戦前までは日常的な収納道具として家庭で当たり前のように使われていました。軽くて丈夫で何十年も使えるつづらは、かつては嫁入り道具の定番で、家紋や名前を入れるのが慣習でした。現在では家紋に限らずオリジナルのマークを入れたいという希望も多く、注文のときに相談することもできます。

また、最近ではつづらの使い道も様々で、子供の思い出の品やペットの洋服の収納のほか、美術品の展示のために特注の製作依頼があったり、ワイン収納箱にしたり、ぬか床を隠すためのインテリアとして使う人もいたりするそう。
恵三さんは小さなサイズのつづらにも「掛け子」と呼ばれる中にはめ込む箱を付けた商品を開発したり、街のお祭りに季節の模様を入れた商品を売り出したりと、現代のニーズに合わせた商品づくりにも取り組んでいます。
恵三さんは小さなサイズのつづらにも「掛け子」と呼ばれる中にはめ込む箱を付けた商品を開発したり、街のお祭りに季節の模様を入れた商品を売り出したりと、現代のニーズに合わせた商品づくりにも取り組んでいます。

普段、平日と土曜日は店内で6代目の良一さんがつづらの製作作業を行っています。作業中にふらっと立ち寄るのは気後れする…そう感じてしまう人も少なくないようですが、もちろん、作業中でもお店に入ってお話を伺ったり注文したりすることはできますよ!

6代目の岩井良一さん(お店提供画像)
大きなサイズのつづらは現在2か月待ち、A4サイズの書類が入る文庫サイズは6か月待ちですが、小物入れという小ぶりなサイズなら、運がよければ和雑貨市で持ち帰ることもできます。結婚祝いや出産祝い、外国の方へのお土産としても重宝するでしょう。

人生で一度は手にしてみたいつづら。月に1度の和雑貨市なら、なんとなく高く感じる敷居も気にせず楽しめますよ♪ ぜひ足を運んで、つづらの魅力を五感で感じてみてください。持ち帰るのは和雑貨なのかつづらなのか、はたまた楽しい会話の思い出なのか…。何であれ、きっとほくほくとした気持ちになることでしょう。
(文:山岸道子)
(写真:丸山智衣 一部先方提供画像あり)
(文:山岸道子)
(写真:丸山智衣 一部先方提供画像あり)
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