歩いていると、さりげなくもどこか惹きつけるもののある気配がして、思わず足を止めてしまう。そんな瞬間があります。

奥渋谷のそのまた奥、小洒落た店も数多い代々木公園駅界隈の路地に立つCAFÉ BARNEY(カフェバルネ)は、そんな類の引力が常にはたらいている場所。
夕闇訪れる頃から日付が変わってもなおしばらくの間、ここで過ごす時間についてくるのは、しっとりとした落ち着きの中にも軽やかさを損なわない、とてもよい塩梅の居心地。
夕闇訪れる頃から日付が変わってもなおしばらくの間、ここで過ごす時間についてくるのは、しっとりとした落ち着きの中にも軽やかさを損なわない、とてもよい塩梅の居心地。

一人前の大人が心の奥底に隠し持つ童心が、一瞬ひょっこり顔をのぞかせた。そんなわずかな着崩し感覚というか大人カジュアル感ただよう雰囲気が、ワインの口当たりに、小料理やデザートの味わいに、そしてレコードの針が拾う音の調べにも。ただひとこと、ムーディーです。


それこそ夢見心地に浸るような夜のひとときが過ごせるのは、夫婦ふたり息の合った歩みで日々営まれるお店であればこそ。互いに自然派ワインなどをたしなむもの同士、そこに似合う料理や音楽のある時間を、ということで7年前に始められたのがバルネなのです。
妻の美加さんが手がけるのは、フランス風のオムレツやリエットといった小料理、それに一日の味覚の最後を飾るにふさわしい「夜のデザート」の数々。
妻の美加さんが手がけるのは、フランス風のオムレツやリエットといった小料理、それに一日の味覚の最後を飾るにふさわしい「夜のデザート」の数々。

厨房でまな板やフライパンと向き合うその姿の方からかすかに良い香りが漂い始めたら、お待ちかねのひと皿とのご対面のときは、もう間もなく。
対して夫・雅之さんは、料理にふさわしいワインを100ほどもあるボトルからセレクトする一方、十代の頃から愛聴してやまないレコードコレクションで場の空気を七色に(かつけっして色気は失わない)染め上げる役回り。
対して夫・雅之さんは、料理にふさわしいワインを100ほどもあるボトルからセレクトする一方、十代の頃から愛聴してやまないレコードコレクションで場の空気を七色に(かつけっして色気は失わない)染め上げる役回り。

軽快さに思わずかかとが弾むシャバダバスキャットから、心沁み入るようなトゥーツ・シールマンスのハーモニカまで、彩りさまざまにムードを「持っていって」くれるミュージックセレクターぶりを発揮します。
申し分ない雰囲気の中で舌鼓を打つものは、例えばロックフォールチーズのオムレツ。フランスではよく登場する羊のミルクでできたこのブルーチーズの、クリーミーかつピリッとした感じを卵のふわりマイルドな食感と共に。
申し分ない雰囲気の中で舌鼓を打つものは、例えばロックフォールチーズのオムレツ。フランスではよく登場する羊のミルクでできたこのブルーチーズの、クリーミーかつピリッとした感じを卵のふわりマイルドな食感と共に。

これをロワール地方のソーヴィニヨン・ブランと合わせて。ロックフォールの強い塩気と、それに負けないだけのワインの果実感がよい具合にお似合いという、雅之さんおすすめのコンビです。
続いては「夜のデザート」を。チーズケーキもプリンもそのほか旬のフルーツを生かしたものも、全てがお手製で温かみを感じさせるラインナップで、これを味わうことこそ、バルネのお楽しみの核心の部分。
シナモンなど4種のスパイスが効いたアイスクリームが上に乗った「クレームブリュレ・ショコラ」は、ブリュレ表面のザクザク感もまた魅力。
続いては「夜のデザート」を。チーズケーキもプリンもそのほか旬のフルーツを生かしたものも、全てがお手製で温かみを感じさせるラインナップで、これを味わうことこそ、バルネのお楽しみの核心の部分。
シナモンなど4種のスパイスが効いたアイスクリームが上に乗った「クレームブリュレ・ショコラ」は、ブリュレ表面のザクザク感もまた魅力。

かたや上のアイスはアルザスで、かたや下のクレームブリュレはブルターニュでという風に、美加さんがかつて旅したフランスの街々で出会った「これは」というふたつの味それぞれが自らの手で再現され、相性良くひと皿におさまった一品です。
ペアとなるワインには、最初にアタックが来てその後すっと抜ける軽やかな味わいの、フランス東部ジュラ地方のプールサールを。
ひとくちひとくち、ちびちびと味わってはムードがまた一歩高まる。そんなバルネならではの甘美な高揚感を、男も女も、誰しも味わいたいものです。
ペアとなるワインには、最初にアタックが来てその後すっと抜ける軽やかな味わいの、フランス東部ジュラ地方のプールサールを。
ひとくちひとくち、ちびちびと味わってはムードがまた一歩高まる。そんなバルネならではの甘美な高揚感を、男も女も、誰しも味わいたいものです。

ロマンスの機微というか、そのともしびがほどよく揺らめく適温というものを原田夫妻は確実に知っていて、さりげない素ぶりながらもそれをここで惜しげもなく披露してくれている、というのは考え過ぎではないと思います。
その快さに導かれるまま、いっそ夜に溶けてしまっても構わない、です(笑)。
その快さに導かれるまま、いっそ夜に溶けてしまっても構わない、です(笑)。

(文:古谷大典)
(写真:井上綾乃)
(写真:井上綾乃)