浅草・六区通りが伝法院通りやホッピー通りと交わる五叉路。5つもの通りからこの交差点へと人が流れては各自また違う通りへと抜けていき、飲み屋さんやお笑いライブの呼び込みの声も飛び交ったりと、あたりは人波みが複雑でややカオスなことになっています。
そんな一角のかたわら、ふと見上げれば、天国。
そんな一角のかたわら、ふと見上げれば、天国。

わかりやすく、ごくシンプルにコーヒーが1杯。ゆるやかなその線描から無言のうちに伝わってくるのは、ここがほっとひと息できる時間を提供してくれそうなこと。加えて、何かしら予想の斜め上を行ってしまいそうな、ただならぬユーモアの気配も。
浅草の街めぐりの途中で一息つくカフェや喫茶は沢山あれど、このお店なら、落ち着きの中にも絶妙なモヤモヤ感。その点において唯一無二のポジションを築いているのが珈琲天国であると言えましょう。
浅草の街めぐりの途中で一息つくカフェや喫茶は沢山あれど、このお店なら、落ち着きの中にも絶妙なモヤモヤ感。その点において唯一無二のポジションを築いているのが珈琲天国であると言えましょう。

BGMには昭和のアイドル歌謡。カフェというよりは喫茶、そんなクラシカルな落ち着きの中にも、ゆるくて人畜無害な空気が流れます。全15席にも満たないこんな小さなお店で、なにはさておき、みんながまずお目当てにするのはホットケーキ(単品で税込550円。コーヒー or 紅茶とのセットで1,000円)。
バターをまんべんなくぬりぬり塗りたくった後で、メープルシロップをとろりしたたらせれば、万人がかつて小さい頃、家庭で親しんだあの懐かしの味。
バターをまんべんなくぬりぬり塗りたくった後で、メープルシロップをとろりしたたらせれば、万人がかつて小さい頃、家庭で親しんだあの懐かしの味。

とろり垂らして、いざ、昇天のとき
子ども時代のスウィートな記憶のごとく、しあわせなひとときが訪れます。焼き印がまた「ハイ、あなたは天国行き」と太鼓判を押されたような気もしてきて。このお店を訪れる限り、どうやらあの世も安泰のようです、なんて。
数年前のいわゆる「パンケーキ」ブーム以来、安定した人気を博しているこのおやつですが、そんな世相に先駆けること10年ほども前の2005年に、このお店はホットケーキをメインメニューに据えつつ産声をあげています。店主の上野さん自身「小さいころからの好物で。嫌いな人っていないもんね」とのことで、ごもっとも。
数年前のいわゆる「パンケーキ」ブーム以来、安定した人気を博しているこのおやつですが、そんな世相に先駆けること10年ほども前の2005年に、このお店はホットケーキをメインメニューに据えつつ産声をあげています。店主の上野さん自身「小さいころからの好物で。嫌いな人っていないもんね」とのことで、ごもっとも。

オープン当初はシニア層や芸人さんばかりだったのが、今や老若男女が列をなして並ぶように
毎日が来客多数、ゆえにキッチンでいつも大忙し。そんな彼女の人となりは「とりあえず陽気そうな人」というざっくりした印象を除けば、ここを訪れるほとんどの人の預かり知るところではないのですが、その一方で知られざる優しさ・配慮といったものもあって、店内で見つかる一見へんてこな特徴の数々にそれが反映されていたりします。

と言いますのは。浅草のような古いまちにある個人の喫茶店というと、マスターと常連さんが何かと内輪話に花を咲かせるばかりで、はじめての人からすればどうにも居心地が悪い。そんなことが決して少なくないわけですが、彼女は各所に意識的にチェーン店っぽく見せる工夫を施すことで、誰でも入りやすいようにしているのです。

チェーン店っぽく、というのはずばり各種グッズのこと。お店で提供しているのと同じオリジナルブレンド豆が入ったコーヒー缶然り、上野さん自身が来ているTシャツやワッチキャップ然り。お店をかたどったミニチュア。それに店外にはオリジナルのガチャガチャも。およそ一年に一個のペースで作り続けた結果、そのラインナップもだいぶ充実してきました。


チェーン店に特有の無難さをやや逸脱した趣味性に「これ、ちょっとサブカルな感じに偏っていやしませんか」なんて声も聞こえてきそうなものの、いいではないですか。だって憎めないから。
そんなこのお店だからこそ、ホットドッグ(単品。税込360円)のこんなルックスも成立するわけです。
そんなこのお店だからこそ、ホットドッグ(単品。税込360円)のこんなルックスも成立するわけです。

名古屋城のシャチホコのごとく雄々しくて、あっぱれ。天まで伸びてくれい。
ちなみに、あのあがた森魚さんなど、ここまで見てきた彼女の趣味性からするに、さもありなんという人選のライブが開かれることも。ちっちゃなお店だからこその距離の近さがまた魅力的なはずです。
各種メニューで「ホット」ひと息する時間を終えお店を出る前、飲み干したコーヒーカップの底はちゃんと見ておきましょう。運試しできるようになっています。
ちなみに、あのあがた森魚さんなど、ここまで見てきた彼女の趣味性からするに、さもありなんという人選のライブが開かれることも。ちっちゃなお店だからこその距離の近さがまた魅力的なはずです。
各種メニューで「ホット」ひと息する時間を終えお店を出る前、飲み干したコーヒーカップの底はちゃんと見ておきましょう。運試しできるようになっています。

(文:古谷大典)
(写真:井上綾乃)
(写真:井上綾乃)