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器から衣服まで、日本の感性が彫り出したカタチの数々 | ten

good mornings

公開日 2019年6月11日

tenは隅田川大橋の江東区側のたもとにある、なんとも意外な立地のギャラリー。重厚長大な雰囲気の色濃い周囲の建物や通りからは想像も及ばないような、心洗われる空間がそこには控えているのです。

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晴海方面の眺望が美しい、隅田川大橋。一方で橋そのものの見栄えはというと、首都高が上下隣り合うように並走していたりしてなかなかインダストリアルな雰囲気を放っています。

やや荒涼とした印象は橋のたもとの辺りでも同様。こんなところに、隅田川の堤防と向かい合うようにしてギャラリーが潜んでいるとはあまりに意外です。その気配がゼロなので。
橋につながる階段のすぐ隣、このクリーム色の細長い建物と緑の金網との間、わずか50センチほどの隙間をかいくぐるように進んで裏手に到達すれば、そこが入り口。
足を踏み入れた先は、まるで異界のような白さ。

振り返るに、ここまで辿ってきた道のりが風美な茶室へと至るにじり口のようなものに思えてきて。
焚かれた香木の繊細な香りにも心あらわれつつ、空間全体を大きくゆるやかに貫く通路をゆけば、窓の向こうに隅田川。向こう岸を歩く人の姿も、ちらほらと。
こんな、立地的な意味で意外にもほどがあるギャラリーが、山本沙枝さんの営むtenです。

まっさらであることが味わい深い。そんな不思議なゆとりを持った空間に配された器類、衣服やバッグ、お茶の席で使う道具、お香といったもろもろのモノたちはみな、国内の作家の手によるもの。

山本さんをして「生地の透け感や柔らかさが、天女の羽衣(はごろも)のよう」と言わしめるのは、"TALK TO ME"と銘打たれ展開される、女性向け既製服。京都市に拠点を構える池邉祥子氏が手がけています。
その肌触りを含め、着る人それぞれ、知っているようで知らなかった自分自身の身体的な特徴に気づかされては自ずと自己を見つめ直してしまう、そんな洋服。

代官山で約10年にわたり販売ほか洋服のプロフェッショナルとして仕事に携わってきた彼女が「実際に着てみて、衝撃的だった」というトップスやボトムス。それほどまでに内面に作用する、まるでメンターのような衣服とは聞いたことがあるでしょうか。
器の方では、いま山本さんの心を掴んでいるものの一つ、東京出身の二十代の作家・広瀬陽(よう)氏の作品などが。

叩いて成形した銅板の上にガラスの粉を何層にも重ねるという七宝焼きのアプローチをベースとしつつも、その粉の薄さゆえにあらわになる緑青(ろくしょう)が与える色味には、独特の奥行き深さ。ふちどられた線の色合い、背の高さがごく平たい点も含め、ユニークです。

丸太から切り出された什器のイチョウも、質感やわらかに。

便宜上、形状ごとに例えば「茶さじ」などと名前が与えられてはいるものの、それがひとつの造形物として宿す美しさが際立つあまり、それ単体で飾ってもみたくなるところ。あるいは各自お好みでものを載せてみたり。

「懐紙入れ」や「古帛紗(こぶくさ)」といった茶道の席で用いられる道具なども。山本さん自身も数年来たしなんでいる茶道は、今こうしてギャラリーを営むほどまでに、日本的な感性というものに正面から注目するきっかけとなったものとあって、思い入れにもひとかたならぬものがあるようです。

琉球藍と阿波藍。作家は異質な二つを一つの布に、人生における出会いになぞらえつつ、同居させている。

このほか、香木を細かい粉末にしたものを、フレグランスをまとうように体に塗る「塗香」なるアイテムまで。他者にはたらきかける西洋の香水とは対照的に、邪気を払い素の自分に立ち返るためのものというコンセプトもふくめ、新鮮。

外来の様々な文物も日常化し、それに慣れ親しむ今日のわたしたち。その依って立つところである日本の自然や文化ならではの感性とはいったいどんなところにあるのか。それは必ずしも表面上にわかりやすく現れるものとは限らず、そこから一歩奥に入った、記号的なものを超えたところにこそ、その本質があります。
美しさも様々に、そういった感性のとり得るかたちの広がりに、ショーケースのように触れられる場所として。

彼女の心からの共感を得てこの空間に並ぶものひとつひとつ、「長い時間がかかっても良いからそれを欲する人といつか出会えますように」との思いで今年2月から営まれている、tenです。

(文:古谷大典)
(写真:丸山智衣)

ten

住所
東京都江東区佐賀2-1-17
電話番号
080-4163-1286
営業時間
13:00-19:00
定休日
不定休
最終更新日:2019.5.30
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※紹介されている情報は、記事公開当時の内容となります。