伝統工芸に携わる職人も多く住まう荒川区。職住一体の暮らしのなか彼らは様々な製品を生み続けていますが、べっ甲細工もまたそのひとつです。
べっ甲。それがウミガメの甲羅であることを知ってはいても、一体どういう経過をたどって製品に姿を変えるのかとなると、ほぼ全く想像がつかないという人がほとんどでしょう。
べっ甲。それがウミガメの甲羅であることを知ってはいても、一体どういう経過をたどって製品に姿を変えるのかとなると、ほぼ全く想像がつかないという人がほとんどでしょう。

それが、先祖代々200年にわたり「森田商店」の屋号を掲げる現6代目、森田孝雄さん宅の一室にある工房では、根付(ねつけ)作りを通じべっ甲細工というものに触れる貴重な機会が提供されているのです。
ウミガメ、中でもタイマイという名の分厚い甲羅を持つ種類のものが使われるのですが、たけのこの皮をむくように剥ぎ取られたその一枚板の大きさは、一辺が15センチも20センチもするもの。
ウミガメ、中でもタイマイという名の分厚い甲羅を持つ種類のものが使われるのですが、たけのこの皮をむくように剥ぎ取られたその一枚板の大きさは、一辺が15センチも20センチもするもの。

これを、模様の映え方、必要な厚さなどを考慮してふさわしい部分を切り落とし、角や表面を削ったり磨いたりすることで、完成品へと仕立てていくのです。
体験でつくる根付の場合、切り出す大きさはおよそ縦4.2センチ、横1.4センチ。自然に波打つべっ甲模様の美しさが映える場所を選び、針でガイドラインとなる線を引いておき、それに沿って糸のこで切り落とします。
前へ動かそうと力まず、むしろ上下に動かすことだけを意識した方が刃が速く進んでくれる不思議。こういったコツの得手不得手はなぜだか人を選びます。なぜか。
体験でつくる根付の場合、切り出す大きさはおよそ縦4.2センチ、横1.4センチ。自然に波打つべっ甲模様の美しさが映える場所を選び、針でガイドラインとなる線を引いておき、それに沿って糸のこで切り落とします。
前へ動かそうと力まず、むしろ上下に動かすことだけを意識した方が刃が速く進んでくれる不思議。こういったコツの得手不得手はなぜだか人を選びます。なぜか。


一枚のべっ甲は中央のあたりに比べ端の部分が薄く、よって部位によっては模様を優先して切り取った結果、厚みが不十分となることも。なので柄がなじむ別のパーツを探してきて、ふたつをあたため圧着により合体させてしまうワザでこれを解決するのですが、このあたりが、べっ甲細工における技術と勘所が試されるポイントのようです。

上下を熱い鉄板に挟まれ熱々になったのを、万力のような器具でギュッと締める。

そうしてこれが、奥側のみ、2枚が重なった状態。これを削って平らに慣らす。

圧着した二つが、まるで元から一枚であるかのように見えるような仕上がりを目指して。補うべきパーツを選びとる目もさることながら、やすりで削ったり小刀で研磨したりを続ける根気強さもまた必要です。

作業を通じてポロポロ大量に発生するべっ甲の削りかす。色味は木材のようで、でも触るとちょっと鰹節みたいな質感。温めるときに漂うごくほのかな磯の香りにも、これまでよく知らなかったべっ甲のリアリティが。
のち、研磨布を高速回転させる機械に側面・表面を押し付けて、真っ平らのぴかぴかに。
のち、研磨布を高速回転させる機械に側面・表面を押し付けて、真っ平らのぴかぴかに。


こうして3、4時間ほどにも渡る作業はようやく終わり。最後、専用のレーザー機械でお好みの四文字を名入れすることもできます。

プラスチックなどがなかった時代には際立って貴重だったであろう、透き通ったこの魅惑の色味。
櫛として、かんざしとして、メガネのフレームとして、肌もかぶれず安心なこのタンパク質の恵み。
自然素材が日々の生活に活かされるようになるまでには、それ相応の手間がかかっている。そのことが肌身でわかる機会は、何かとコンビニに頼りがちな現代人の皆さん、ぜひ積極的にもった方がよさそうです。
(文:古谷大典)
(写真:奥陽子)
櫛として、かんざしとして、メガネのフレームとして、肌もかぶれず安心なこのタンパク質の恵み。
自然素材が日々の生活に活かされるようになるまでには、それ相応の手間がかかっている。そのことが肌身でわかる機会は、何かとコンビニに頼りがちな現代人の皆さん、ぜひ積極的にもった方がよさそうです。
(文:古谷大典)
(写真:奥陽子)
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