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その突き抜けた存在感は戦前から。「顔のYシャツ」ここにあり

good mornings

公開日 2019年12月14日

その店名以前に有無を言わさず目にとまる、坊主アタマの顔。これ、いまお店を営む梶秀夫さんの父・永松(えいまつ)さんの青年時代の似顔絵をそのまんま店頭看板に仕立てたものでして、その笑みは驚くなかれ、戦前から変わらないのです。

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千代田区神田小川町2-1-2。目抜き通りが交差する小川町交差点のすぐそば、かつ地下鉄出口が目の前という絶好のロケーションにある、あそこのアレ。

音楽室のベートーベンよりもずっと大きなサイズでもって、道ゆく人へと投げかけられる(ような気がしてくる)不敵な笑み。最近できたものかと見紛う人がいてもおかしくない、その色褪せないシュールさときたら唯一無二です。
世界が終わってもこの顔だけは永遠不滅、そんな予感さえ抱かせるこの坊主アタマの青年の顔は、実はここに鎮座ましますこと戦前から。このビル1階にて営まれるテーラーメイドのYシャツ店「顔のYシャツ」の店頭看板として、色が落ちてきたらまた塗り直されて、を繰り返し今なお健在なのです。

100年ほど前にこの稼業をはじめた故・梶永松(かじ えいまつ)さんが自身の青年時代の似顔絵というかたちでひと肌脱いだこのPRが、今日に至るまでいまだにインパクトを保ち続けている事実、改めてスゴいことだと思うのですが。

各商品の胸元には揃って一様に顔のワッペンが…、いえ、ついてません(笑)。

その永松さんの息子でいま88歳の現店主・秀夫さんは、ここで生まれ育った根っからの神田っ子。千代田区内の九段高校に通っていた頃、テスト期間中も日々稼業を手伝わされた頃の記憶をよく回想しては語ります。

「口うるさい父親でね。『お前はシャツ屋なんだから勉強しなくていいんだ』なんて言われててさ。だからテストの前日は夜八時に仕事が終わったらすぐに夕食をかきこみ勉強をはじめて、そのまま寝ないで朝を迎えて、試験を受けたらパッと忘れる」ですと。
短期集中にもほどがあるその勉強スタイルはすこぶる効率が良かったようで、のちにみごと慶應大学の文学部に入学。父親とのかねてからの約束で、大学の四年間は、学内の図書館を利用したのがたった一度きりというくらい、もっぱら遊んで過ごしたのだそうです。

せんべい屋の息子である仲良しの学友と、当時あったもうひとつの店舗(「顔のYシャツ 銀座店」。のち、オリンピックに先立つ首都高建設に伴い閉鎖)からすぐそばの美人喫茶・アルビオンに毎日通ってはガールハントに勤しんだり、それはそれはまさしく「謳歌する」と呼ぶべき道楽ぶりだったもよう。

左から母、高校時代の秀夫さん、姉・美津子さん、父・永松さん。

右から三人目が当時12歳の秀夫さん。戦時、疎開先の長野県上田にて。

その銀座店、今はなき日劇のすぐそばという絶好のロケーションに位置していたこともあり、「娯楽の殿堂」を仕事場とする当代きっての芸能人たちも多数お店を訪れていたとか。かのフランク永井などともよく通じていたそうで、そういった交わりを数多く持てたことは、若かりし秀夫さんの日々をこの上なく充実させていたようです。

かたや、親の仕事をずっと真面目に手伝い続けてきたのが姉の故・美津子さん。大学以来の享楽的な日々のさなか、ふと目に入ったその背中が印象的で「俺も一生懸命やんなきゃいけないかな」と思い、改心したと言います。

それ以後は、本格的に家業に向き合う日々を。

出刃包丁みたいに太く・丸い刃を大きく使って布地を裁断。男のしごと。

このビルの2階に住まい、奥さんとの二人体制で今なお続くお店。お客さんは地域の人はさることがながら、遠方から出張で東京を訪れたサラリーマンがついでにこちらで仕立てていくという例が北海道からも、鹿児島からも。さすがの、顔の知名度です。

体力も勘案して、今現在は採寸、布地の裁断を済ませたのちの裁縫工程は外注を利用。それが戻ってきたら専用の機械「穴ミシン」でボタンホールをかがり、さいごに心と体重をしっかり込めてアイロンがけすれば完成。

一着、また一着と、いまなお現在進行形でその歴史は積み重なっています。
仮に「近代日本のまち遺産」なんてものがあったなら、諸手を挙げて推挙したくなるようなお店。耳は遠いけれど米寿にして尚おしゃべり好きな秀夫さん、どうぞこれからもお元気に、そしておしごとも無理ないペースでお続け下さい!(祈)
(文:古谷大典)
(写真:丸山智衣)

顔のYシャツ

住所
東京都千代田区神田小川町2-1
電話番号
03-3291-3112
営業時間
9:00〜18:00
定休日
日・祝
最終更新日:2019.11.28
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※紹介されている情報は、記事公開当時の内容となります。