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神田っ子の職人が蘇らせる時計のチクタク。これ、人生を歩む足取りの音 | 振天堂トケイ店

good mornings

公開日 2020年2月1日

神田小川町にある時計修理のお店「振天堂トケイ店」は創業明治25年。生粋の神田っ子にして時計職人の戸田さんがしごとに捧げる情熱のわけは、生まれ育ったこの町への愛着ゆえ、といっても良さそうです。

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休むことなく時は流れて、時計が聞かせるチクタク音。時針が00分、15分、30分、45分を回るごとにその響きも優しい「シャーン」とか、また別の時計ではもっとふくよかに「ボーン」とか。

店内を飾る数々の掛け時計が一定の時間間隔で聞かせるアンサンブルは耳心地よく、おのずと優しい気持ちになってきます。

十二進方に加え、干支での時間表記も併記された時計(左)、それに周囲の気圧から半径約20キロ内の直近の空模様を判定してくれる時計(右)も。

明治25年(1892年)創業の振天堂(しんてんどう)トケイ店。近隣のすずらん通りにある画材店の文房(ぶんぽう)「堂」、書店の三省「堂」などと同様、古参ならではの格式高いネーミングを掲げるこのお店は、時計修理の専門店。

時計小売店としてはじめられ、やがて都内有数の販売店として長きに渡り繁栄するも、その後大型量販店の台頭・普及が進み昭和60年(1985年)にはいちどお店をたたみかける事態に。先代の父や兄が店を離れるなか、その存続が途絶えるのがあまりに口惜しかったという現店主(三代目)・戸田守彦さんが孤軍奮闘し、時計修理の専門店として再生させ、今に至ります。

初代である祖父がかつてドイツで購入し、創業当時から常に店内に置かれる柱時計「グランド・ファーザー」は、戦時には疎開もさせたという大事な大事な宝物。店がこれまで積み重ねてきた時の長さを象徴するこの一品をかたわらに、戸田さんは日々、全国から舞い込む修理依頼に一級の技術で応え続けています。

戸田さん。背後には「グランド・ファーザー」も。

壊れたら即買い換えることを店側から推奨されることも多いこのご時勢にあって、小さな腕時計でもそれが背負いうるモノの大きさを大事にしている彼。商品として出回っていた頃から時が経って今や入手不能となった部品でも、時に代替品を自らこしらえるなどして、持ち主が気持ちや思いを重ねる一品が息を吹き返すよう最善を尽くします。

他店で断られたのちに依頼されることも非常に多く、このお店、さながら時計修理の駆け込み寺のようです。
彼が時計のメカニズムに関心を抱き始めた時期は、生まれが生まれだからでしょう、物心つくよりもずっと前で、初めて時計の分解に挑戦したのもなんと幼稚園のとき。

あらゆる部品がなにひとつとして無駄なく意味を持つ、その構造としての精緻さはごく幼かった戸田少年の心を早くもわしづかみにしていました。

4歳の戸田さん、そしてお姉さんも。きょうだいの左には今なお店内で時を刻む置き時計・1890年製のユンハンスが。

幼少期によく駆け回った錦華公園。右、第二期生として通った錦華幼稚園は統廃合により現在は「お茶の水幼稚園」となるも校舎の場所は不動。大きくなってのち進学することになる明治大学のビルを背景に。

毎日の、ひいては人生のお供として時計が果たす役割の大きさや普遍性、またいちど過ぎ去れば二度と帰ってこない時間というものの不思議、それがもよおすロマンやノスタルジー。

そういった諸々が相まって、時計屋の息子が抱く家業へ誇りは揺るぎないものへと育まれ、かつ今のしごとに対する矜持にもつながっています。

仕事場にはドリルの歯とかペンチとか、歯医者さんと共通のものも色々。ベストな使い勝手を求め自作したものも。

錦華幼稚園にはじまり、錦華小学校、明治中学校、明治高校、そして明治大学と、幼年期から青年期までを過ごした学び舎が一貫してお店のご近所界隈に収まるという、生粋の神田育ちの戸田さん。

そのひとかたならぬ地域への愛着といったら、二年に一度の神田祭のときに撮った写真アルバムの分厚さにもよく現れていて、ひとえにこの地で過ごした時間の長さに比例している、ということなのかもしれません。

左下、一番先頭で神輿を担いだ時のようす。生粋の神田っ子たるもの、神田祭は毎度毎度が思い出深い。

戸田さんの生まれる前の昭和17年、出征する父を送り出す一同行列。背景左には空襲で破壊される前のお店のビルが。

「あの時、あの店で、あの人と心底笑って楽しかった」とか振り返ることの幸せ。自分がきょう・いまを生きる上で少なからず肥やしになっているはずの思い出は、いくらお金を積まれようと売ることの出来ない、本当にかけがえのないものであること。

戸田さんは、しごとの数だけ身を以て深くそのことを知っています。

ちなみにお店のある現在の振天堂ビルも、竣工したのが昭和35年(1960年)とだいぶ古いもの。中でもこのエレベーター、都内でも有数のレトロさを誇る「手動式」のエレベーターとなっていて、手で開け、扉が重いのを「ヨイショ」と支えながら中へと乗り込むまでの一連の動作が、やってみて趣深いです。
(文:古谷大典)
(写真:丸山智衣)

振天堂トケイ店

住所
東京都千代田区神田小川町3-10 振天堂ビル2階
電話番号
03-3291-4554
営業時間
10:00〜18:30
定休日
土日祝
最終更新日:2020.1.21
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※紹介されている情報は、記事公開当時の内容となります。