青物町の交差点から東へ200メートル進んだところにある小田原おでん本店は、数あるおでん種の味わいはもちろん、視覚的な美しさ、居心地などトータルな食体験が素晴らしく、小田原で過ごす時間の最良のひとつがココにある、なんてお世辞なく言うことができそうです。
築およそ70年の住宅を改装して作られた店はガラガラと戸を開ければ細長く、そこには15名分のカウンター席、またそれに隣接して最大4名が入れる個室(ステラルーム)が。


店奥側から入り口方面への眺め。右手向こうがステラルーム。ほかガーデンルームまで。
客との間でのそんなゴスペル的コール&レスポンス感といい、采配の冴えたそのMC(マスター・オブ・セレモニー)ぶりは頼もしく、お皿が目の前にやってくるときも無性に心躍るものを覚えるはずです。

下ゆでしたのち二日はかけてじっくりだしを吸わせるという大根。かたや練り物などはおよそ30分ほどでOK。まち自慢の12の老舗蒲鉾店がこのお店で供するためだけに作ったというベストマッチな種は、全てが一点あたり25g以下に揃えられ、その多様性をあれこれ堪能できるようになっています。


メニューのイラストも実は露木さんの手によるもの。画伯。
実は、オープンに先立つこと数年前から行われている4月の「小田原おでんサミット」、9月の「小田原おでん祭り」といったまちおこし施策の一環で、市民から公募しめでたく入選を果たしたおでん種がこれらのラインナップに逐次加わることでその層が年々厚くなっているのです。

・大根(定番の本当においしいの)
・しらす団子(お団子の外にも中にもしらすが沢山)
・金目なると(ぷりっと歯ごたえ)、
・イカすみつみれ(色味に反してクセなし。安心)、
・えび天。(食感ふわり。えび風味)
こんな感じで盛り付けられたのを、知られざる小田原じまんの産品・梅を使った「梅みそ」、「わさび醤油」、「からし」の3種をお好みでつけながら頂くのです。
このほか牛すじにもぜひ寄り道を。白味噌にも関わらず4日間煮込むことでしっかり色濃くなったその味わい、ご飯やうどんともよく合います。

19の頃に会社を立ち上げ舞台監督を手がけてきたという彼の手腕は、母屋以外でもビシバシと発揮されていて、中庭を隔てて向こう、茶室とはなれの2つの個室空間(ともに要事前予約)がまたとっておきの機会のために覚えておきたい素敵さ。


にじり口から覗く「茶室」。一日ひと組のみ利用可。

こちら「月の風音(ふね)」では、露木さん自らがバンド仲間とライブも。2ヶ月に一度のお楽しみ。
いっそ存分に楽しまないことには損するほどの小田原グルメが、ここにあります。
(文:古谷大典)
(写真:奥陽子)