ちくわ。 おでかけ情報

食と農と教育の未来を考える米屋・金沢米店

good mornings

公開日 2020年8月1日

ここはまちかどのお米屋さん、なのですが人や世をつくる基盤としての主食・お米の重要性に根ざしたセレクションが光ります。地理教師として第一線で活躍した砂金(いさご)さんならではでしょう。

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台東区入谷の、落ち着いた商店の並びにある金沢米店は、築100年を超える現家屋の建てられたさらにその前から続く老舗。

外からは小学校の授業で見学に訪れたのであろう子ども達の寄せ書きなんかものぞく、微笑ましいまちのお米屋さん、といった風ではあるものの、その寄せ書きも単なる社交辞令で書かれたようなものでは到底なさそう。それだけの人とハートがこの店にはあるからです。
目の前を通る道が金美館(きんびかん)通り、店を営むのが砂金(いさご)健一さんと、店名に限らず何かと「金」の文字がついて回るなんとも縁起の良いお店ですが、そこで取り扱われるものもまた、彼がその目で見つけた約30件の生産者の手がける「金」シャリ玄米の数々。

岩手県は滝沢の武田さん、新潟県は津南の桑原さんなど直取引する農家が育むこだわり米、農法としての取り組み、そして信頼を委ねるその人となりや真摯さについても。現地を個々に訪ね歩いたその目でそういったことがらをありありと伝えてくれる彼の存在がゆえに、まさしく作り手の心根・心意気の見えるお米がここでは買えるのです。
中でも取り扱いの多い「合鴨農法米」とはアイガモを飼い、日中それらを水田に放ち害虫や雑草を食べさせることで無農薬を実現するという、有機農法の一種で作られたお米。

稲を食べたり大きな体で踏み倒すこともないヒナたちを田植えの時期に放つと、彼らが泳ぎながら田んぼの水をかき混ぜてくれることでイネがよく生育し、糞もそのまま肥料になる。稲刈りの時期を前に大きくなった彼らをそこから引き上げ、後々その美味なる肉を頂くことでいのちのひとサイクルが完結。畜産の要素も兼ね備えつつ野生の自然環境に優しいアプローチとして実践され、かれこれ30年ほどの歴史があります。
90年代初頭、これに先駆的に取り組む生産者が「これこそ期待の有機農法」と合鴨農法をすすめる寄稿を農業誌で展開したのをきっかけに一躍注目が集まり、やがて「全国合鴨水稲会(すいとうかい)」も組織されるように。

関連分野の学者と共に知識や技術・ノウハウを互いに共有し洗練させるなど、今では全国300名弱の会員たちが取り組む中、砂金さんも流通分野に関わるひとりとして四半世紀以上にわたり積極的にコミット。年に一度の「全国合鴨フォーラム」が2012年東京で開催された際にも大会委員長としてこれを先導しているほどです。
もともと地理や政治・経済を教える中学・高校教師であり、生徒が自ら主体的に学ぶ力を育めるよう「足で書く農業レポート」なる独自のプログラムを実践していた砂金さん。教える側の彼自身、夏休みには教員仲間と連れ立ち日本各地の農山村を巡り、いのちに不可欠な糧をつくり出す農業の営みに肌身で触れてはつど新たな教材づくりに活かしていたと言います。

その恩恵を受ける都会人として、身土不二、つまり食べ物により生き長らえる人間の生命は、それを育む大地と不可分な存在であるという事実の意味することを、生徒にも自身にも深く問い続けてきたのです。
奥さんの生家であるこの金沢米店を継いだタイミングは折しも1993年という大凶作の年。農に携わることへの誇りを大切に真摯に取り組む生産者(そしてその産物は例外なく美味しい)のよさを過去の経験から鋭く嗅ぎ取ってきたセンスと知見は、このピンチに際してお店の舵取りにも大きく活きることになります。

米流通が自由競争にさらされるであろうといち早く見越した彼は、食糧管理法の廃止で生産者との直取引が可能になるや、すぐさまこれに「こだわり農家のパートナー」として乗り出します。大規模な卸業者に任せるそれまでのスタイルから、十把一絡げに扱われない価値あるお米を自らの目で探し・取り揃えるやり方に切り替えたのです。

「日々の食卓にのぼるものの中でいちばん安価なのがお米。米1キロ ≒ 7合、1合 ≒ 2杯だから、米1キロ分の値段を単純計算して14で割ってみれば、その値段は実はとても安いことに気付いて欲しい」と砂金さん

ひとつひとつが命の糧として育てられたお米、そしてその背景にあるのは「言葉尻こそ違えど、私が出会ってきた米づくりの名人たちが一様に言うのは『毎年毎年が一年生』。おごりで目の前が曇ることもなく、新しい課題が毎年見えてしまうわけですね」だなんて全国民メモ必須の、なんとも含みの多い言葉です。

20年近く前に書かれた彼のブログ「時事エッセイ」の各記事でも、政治や社会における当世の不正に対して心で以て問う言葉が随所に見られ、いろいろ響くものがあるでしょう。
というわけで、パートナーたる砂金さんに対する生産者の信頼は厚く、かつて雑誌「現代農業」で7ヶ月にわたり展開された彼の連載記事を読んだ篤農家から「ぜひ私のも取り扱って欲しい」とオファーも継続的にやってくるというのも納得のひとこと。東京という一大消費地で、こだわり農法米が埋もれることなくちゃんと見つけてもらえるための、ひとつの頼もしいプラットフォームがここ入谷にあると言って差し支えないようです。

地域の各種お店をたずねて商いの現場を見学!ということでやってくる保育園や小学校の子ども達も「農家さんの心がこもったお米っておいしんだよ。食べたお米が君たちの身体になるんだよ。ぜひ自分の手で優しく洗米して、炊いて、食べてみようね」と熱量ある目と声で語りかける彼を前に、普段以上に深くうなずいてしまっているはず。
いまお店の二階で開く「無料寺子屋」でも、教育者としてのかつての姿そのままに、自分で自分の課題を見つけさせては自信がつけられるよう子どもたちと接し続ける、砂金さんです。

(文:古谷大典)
(写真:丸山智衣)

金沢米店

住所
東京都台東区入谷1-24-1
電話番号
03-3872-8844
営業時間
10:00~19:00
定休日
日曜・祝日
最終更新日:2020.6.22
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