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ひとりの為の製品が、あらゆる暮らしに小さな風穴を | 86400合同会社

good mornings

公開日 2020年11月28日

荒川区荒川を拠点に、地元の職人と協働しつつ作られる生活道具。建築畑の男性二人組により都度ただひとりのニーズに向けて製品化されるこれらアイテムは、同時にその他あらゆる人々の暮らしに問いを投げかけ、影響を及ぼす可能性も秘めています。

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一見してなんだこれは、と思うようなものを大真面目に作ってみせる人がいます。

例えばこちら。コップ、飲み干したワンカップ、あるいは空になった市販の風邪薬のビンでも一輪挿しの花器に早変わりするという、銅や真鍮製の金属板。その名も「フラワースカーフ」。
花がコロポックルみたいに、ことのほか人間ぽく可愛らしく見えてきて不思議。

これが世に出たきっかけは、あるいち個人の、たいそうなとまでは言わずとも、とるに足らないものとして(本人的には)決して片付けられようもない、ひとつの望み。いわく「大きさだとか形だとか、空きビンが面白くてとりあえず集めはするものの、今ひとつよい使い途が思いつかない」というのです。それへのいわばアンサーとしてリリースされたこの一品、似たようなモヤモヤを無自覚のうちに抱える人にとって福音となるのはもちろん、住まいのかたわらに花を生けて愛でる営みなどとは縁遠い友人がいたとして、彼(彼女)にそのよさをさりげなく勧めたい場合などにも使えそう。

他では、スイーツでもひときわハレの日オーラの強いケーキがより映える「ケーキのお皿」なるモノも。
「新居に移って月日が浅い中、積極的に来客をもてなしたくなる、ウキウキするモノを」とこれまたあくまで実際の一個人の理想のために製品化されたというアイテム。よく磨かれた表面が反射光をあらゆる方向に散らばすことで、その上に鎮座まします主役・ケーキが照り映えルックスが底上げされる格好になっています。

またこのカタチ、蓮を模したものになっていて複数並べればテーブル全体がさながらケーキの花咲く池のよう。風流な見立てで場にはいっそうの華やぎが、という訳です。

差し出された方は虚をつかれたかのような多少の戸惑い、でも同時にささやかな感慨深さも。これを日々のお供とし始めた持ち主の目の前には、それが希望か疑問か、わずかにでも新しい世界が開けてくることが期待される、そんな日用品。一見不可解なようで実は示唆深く、琴線に触れるこれらのモノを世に送り出しているのが、共に建築畑を歩む山本さん(左)と志水さん(右)です。
会社組織として86400”(はちろくよんぜろぜろ。通称「はちろくよん」)の名で活動する彼ら。大学時代も同じ研究室で建築や都市計画を学んでいたという、気心の知れた同志です。

一日24時間、それは1,440分でありひいては86,400秒である、なんて改めて言われれば無性に身も引き締まるこの事実。誰しも等しく与えられたこの時間という枠内で人はみな各自の日々を生き、暮らしを営んでいる。その共通した部分を最小公倍数でまるっと切り出すのがマーケティングだとしたら、彼らが取り組むのはそこからはみ出す凸凹の部分。ここを真正面から見つめ、たったひとりの用途に向けられたモノ作りをするというのがふたりの取るアプローチなのです。

世に出た商品はただいま全部で 7つ。仕様や価格帯を変えたバージョン違いのリリース予定もある一方で、「あなたの生活、募集します」のキャッチコピーを掲げ、個々人を対象にパーソナルなよろこびや困りごとを募ってそこから商品開発するプロジェクトも目下進行中です。
ことの発端は5年前。不動産屋さんからの勧めもあってたまたまここ荒川区へと越してきたという山本さん。加入した地域消防団では、このエリアらしいことに、腕利きの金属加工職人さんと出会う縁があり、かねてから営む設計士としての仕事では、彼の協力により店舗設計のみならず実物の金属板まで作って納品することができたのでした。

この一件を経て山本さんは、やがて金属という素材の果たしうるポテンシャルについて夢想し始めます。それも店舗や住宅といった単位でなくもっとミクロで具体的な、生活のふとした瞬間に抱く思いを巡って何かできることがあるのでは……、という。旧知の志水さんもその点大いに興味と賛同を示して郷里の熊本からこちらへと移り、おととし2018年に86400”として船出を果たしました。

そして翌2019年にはいよいよこれを事業化へ。件(くだん)の金属加工職人に限らず今後も荒川のまちらしくモノづくりの職能豊かな地域の人と協働しつつ、個人のニーズに端を発する新たな日用品を世に送り出そうとしています。

チョコ好きな山本さんが、食べ過ぎないようにと自分自身の為に作った「チョコレートの台座」。ずしりと重みある多角形の金属塊の上に乗せるひと粒・一個がおのずとプレシャスな味わいに

いまだ光を当てられることもなく、日々世界をただよう何か。世相なり個人の気持ちなり、その辺りを言葉で巧みにすくいとる山本さんと、その言葉・そのイメージを元手に毎度かたちあるものへと結晶化させてみせる志水さん。

同じ研究室出身として学びのバックグラウンドを共有しているだけでなく、直近で観た映画でも出張先で見かけた公園の光景でも、各自いいなと思ったものはさかんに伝え合う、そんな姿勢が感性の部分でパイプの太い意思疎通を可能にし、プロダクトとして実を結んでいます。
このたび10月にリリースされたばかりの最新作は「香りぐるま」。別段、回転してはくれません。

灰を受ける皿が別途必要な形に「あえて」作られていて、手持ちのワンプレートランチ用のお皿でもなんでも取っ替え引っ替えしてより良いコーディネートを探ったり、たびたび灰の掃除をしたり、これを手にした持ち主が日ごろ積極的に関われるだけの余地が残されています。

変色防止加工がなされていないので時々磨いてメンテしつつ、しかしそれでもなお移ろいゆく銅や真鍮の表情。経年変化を目の当たりにして何がしかの感慨を抱くことになるのは既存のすべての製品に共通するポイントです。
インテリア的にも洋の東西を選ばないそのやさしい輝きは、発注主はもちろん、あなたの部屋の、わたしの家の、いろんな場所に良い具合に収まってくれそう。面倒を見るようにこれと付き合う日々が始まるのも、まんざら悪くないように思えてはきませんか。


(文:古谷大典)
(写真:小島沙緒理)

86400" (はちろくよん)

住所
東京都荒川区荒川2-10-6  ※本社での商品の販売は現在行っておりません
最終更新日:2020.11.16
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