曳舟駅の改札を出て右側の、夕暮れどきには縄のれんや赤ちょうちんが目につき、素敵な夜の賑わいを予感させる路地。そこに入って間もなく、左手に見えるのは、猫の体でかたどられた「6」の字のあるお店。

その優雅な曲線美に手招かれるまま扉を開けると、めくるめくスパイス料理とクラフトビールの世界があなたを待っています。

「Spice Bar 猫六(スパイスバル ねころく)」のオーナシェフ・芳谷(よしや)昌宏さんが日々手がける料理の世界、それはとてもユニークなものです。このお店を開いた3年前には、日本のカレー文化に貢献したお店を表彰する「ジャパニーズカレーアワード」の2014年新人賞を受賞。その理由も、単にとびきり美味しいからではなく、世の中にある多様な食材・料理をベースに、スパイスの奥深い味覚との掛け算で展開するその「スパイス料理」が新鮮かつ見事だったからなのです。

「カレーがいちばんのお目当てということで遠方から来られるお客様も多く、嬉しいですね。でもうちはカレー屋ではなく、あくまでスパイス料理と世界のクラフトビールで、美味しくて心豊かなひとときが過ごせる、そういうお店をこころざしています。スパイスの可能性は本当に無限大で、私自身スパイスを使って季節の前菜を作る時がいちばん楽しかったりします。素材自体の旬の美味しさが、どんな感じに仕上がるのかなって」。
いわゆる普通のカレー屋さんとはひと味もふた味も異なるアプローチで繰り出される料理に魅せられた人は数知れず。芳谷さんが厨房に立ち調理を進めるうちに立ち上ってくるかぐわしい香りにはワクワクを隠しきれません。
いわゆる普通のカレー屋さんとはひと味もふた味も異なるアプローチで繰り出される料理に魅せられた人は数知れず。芳谷さんが厨房に立ち調理を進めるうちに立ち上ってくるかぐわしい香りにはワクワクを隠しきれません。


その創意あふれるプレートが目の前に現れる興奮といったら! 枝豆のペペロンチーノ、キウイと帆立のカプレーゼ、クリームチーズとオイルサーディンのディップの前菜三品、それに大人気の「粗びきチキンのクリーミーキーマカレー」。ラベルもクールなクラフトビールは見た目も味も、実によく合います。

「カレーを肴にビールをどうぞ。食事ではない、一品スパイス料理としてのカレーの魅力を感じてみてください」。食べてなるほど、より純粋にカレーの味を楽しめる気がします(なおクリーミーキーマカレーは、通常はライスつきで提供)。

実は芳谷さん、過去にお店を持ったことはなく、この猫六が初めての経験とのこと。「家族に料理や飲食業に携わる人が多かったので、子どもの頃から美味しいものを味わう機会にも恵まれて料理に興味も持っていたんですが、若い頃はギターをやっていて。音楽の世界にいたんです」。


「その後、築地の鰹節専門店で働き、そこに仕入れに来る飲食店経営者の方達の知己を得たこと、それに墨田の地に名店『スパイスカフェ』ができて、そこのカレーのあまりの美味しさに衝撃を受けてスパイス料理を研究し始めたことが、今に繋がっています」。
初経験の美味なる世界にどっぷり浸かって幸せな気分の中、ふと思い出されるのはその店名のこと。「猫六」…改めて不思議な名前です。
初経験の美味なる世界にどっぷり浸かって幸せな気分の中、ふと思い出されるのはその店名のこと。「猫六」…改めて不思議な名前です。

「妻も私も猫好きでして。結婚当初は私が2匹、妻が4匹で計6匹の連れ猫がいたんです。50歳になって妻と二人、このお店をオープンするにあたり、初心に戻ってスタートしようという気持ちで名付けました」という、なんともほっこりするお話。
しかも芳谷さん夫妻とも顔なじみの地域猫が、勝手口からひょっこりご来店、なんてことも割とよくある光景です。かわいい!
しかも芳谷さん夫妻とも顔なじみの地域猫が、勝手口からひょっこりご来店、なんてことも割とよくある光景です。かわいい!

ネーミングだけでない、リアルに「猫」なお店、というわけですね。
そんなユニークで素敵なお店を日々切り盛りする芳谷さんですが、地元墨田・向島へ抱く思いにも並々ならぬものが。「今、曳舟や向島界隈は若い世代の移住人口が増えていますし、昔から親しまれているお店とはまた違う、猫六のような新しいお店へのニーズも高まっていると思います」。
「この街がいっそう活気があって、地元民である・ないに関係なく愛される街になるように、私もこの店を通じて力を尽くしたいと思っています」。
そんなユニークで素敵なお店を日々切り盛りする芳谷さんですが、地元墨田・向島へ抱く思いにも並々ならぬものが。「今、曳舟や向島界隈は若い世代の移住人口が増えていますし、昔から親しまれているお店とはまた違う、猫六のような新しいお店へのニーズも高まっていると思います」。
「この街がいっそう活気があって、地元民である・ないに関係なく愛される街になるように、私もこの店を通じて力を尽くしたいと思っています」。

芳谷さんの料理がこんなに美味しいのは、あまたあるスパイスに混じって、地元愛までブレンドされているから?なのかもしれません。
(文:牧野雅枝)
(撮影:大塚秀樹)
(文:牧野雅枝)
(撮影:大塚秀樹)